社会保険(厚生年金・健康保険)未加入・未納のリスクについて

日本経済新聞で社会保険に加入していない中小零細企業約80万社に対して指導、という記事が昨年掲載され、社会保険未加入に対するリスクについて関心が高まっています。
今回は社会保険未加入、社会保険料の未納についてのリスクについて説明させて頂きます。

  1. 社会保険 とは
  2. 社会保険未加入、保険料未納 による追徴・罰則は?
  3. 今後はさらに厳しくなる可能性が高い?
  4. 社会保険未加入・未納のリスク まとめ

 

1.社会保険 とは

社会保険とは、一般的には会社で加入する「厚生年金・健康保険」の2つの総称を指して使用されることが多いです。(本来は、雇用保険や労災保険なども社会保険に入ります)
厚生年金はご存知の通り、公的な年金制度であり、主に老後の生活に困らないよう、老後の収入を補う目的があります。健康保険は労働者がケガや病気になった際に医療費の負担を軽減させる目的で設けられた公的な保険制度です。

社会保険は法人の場合、強制加入となります。「従業員がいないから大丈夫!」ではなく、社長一人の会社であっても報酬が発生している場合は加入する必要があります。
また、個人事業の場合でも、一定の条件を満たす場合には加入しなければなりません。

社会保険料は標準報酬月額表というものを用いて、計算されます。
毎年1回、4月・5月・6月の報酬の平均額を用いて標準報酬を計算し、保険料を決定します。
保険料は事業主と従業員とで折半し、事業主が給与から天引きしてまとめて支払いを行います。

事業所の加入条件、社会保険料の計算方法の詳細は下記のリンクからご確認ください。

 

2. 社会保険未加入、保険料未納による追徴・罰則は?

社会保険に加入しなければならない事業所が、未加入であったり、加入しているけれど保険料が未納の状態であったりする場合は、どのようなリスクがあるのでしょうか?

①「社会保険未加入」の場合

未加入の場合のペナルティとして、追徴と罰金があります。

・追徴金について
年金事務所の調査により未加入が発覚した事業所には、該当する者の社会保険料を2年間に遡って追徴されます。

例えば、社長1人(月50万)、従業員2人(月20万/人)の場合ですと、東京(平成27年度)の場合
(社長分)          (従業員分)
(137,220円×12か月+54,888円×2人×12か月)×2年=5,927,904円となります。

これを事業所と被保険者で折半し、支払をしなければなりません。

しかし、従業員がすでに退職をしており連絡がつかない場合などは、事業所が代わりに負担しなければならないケースもあります。

このことからも金額負担がとても大きく、リスクを伴うことが分かります。また、従業員が多かったり、給料の高い人を雇っている場合にはさらに高額になりますので、注意が必要です。

 ・罰則について

罰則は正当な理由が無く、下記の要件のいずれかに該当するとき、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金があります。(健康保険法第208条)

  1. 被保険者の資格の取得及び喪失並びに報酬月額及び賞与額に関する事項を保険者に届出せず、又は虚偽の届出をしたとき
  2. 任意適用事業所取消の認可、被保険者資格の得喪の確認、標準報酬(標準報酬月額及び標準賞与額をいう。)の決定若しくは改定について被保険者又は被保険者であった者に通知しないとき
  3. 保険料納付義務に違反して督促状に指定する期限までに保険料を納付しないとき
  4. 保険料納付義務に違反して保険料を納付せず、健康保険印紙の受払及び現金納付に関する帳簿を備え付けず、その受払等の状況を保険者に報告せず、若しくは虚偽の報告をしたとき
  5. 厚生労働大臣又は社会保険庁長官による被保険者の資格、標準報酬、保険料又は保険給付に関する立入検査等に対して文書その他の物件の提出若しくは提示をせず、又は当該職員の質問に対して答弁せず、若しくは虚偽の答弁をし、若しくは立入検査等を拒み、妨げ、忌避したとき

②「保険料未納」の場合

未納のペナルティとして延滞金があります。

延滞金は本来の納付日に納付しなかった場合、督促状が届きます。
そして督促状の指定期限日までに完納しないときは、納期限の翌日から完納の日の前日までの期間の日数に応じ、延滞金が発生します。

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上記の図のように延滞金が発生します。(日本年金機構ホームページより 引用)

※延滞税及び延滞金、加算税及び加算金並びに過怠税は、損金に算入されないとして法人税法では規定されています。しかしその内容は限定列挙されており、社会保険や労働保険に係る追徴金や延滞金は含まれていませんので、損金算入が認められます。(法人税法55条3項)

 

3. 今後はさらに厳しくなる可能性が高い?

今日の日本はご存じの通り、超高齢化社会です。今後高齢者の比率は増加する可能性が高く、国の発表(内閣府ホームページ)によると、2050年における高齢化率(65歳以上の割合)は、39%近くとなっており、1.2人で1人の高齢者を支えることになります。

そのため、社会保険制度の財政はこれまでよりも厳しいものとなり、社会保険料のさらなる引き上げや、未納者に対するペナルティなどが強化される可能性は十分にあり得ます。

日本経済新聞の平成26年7月4日掲載の記事によると、政府は社会保険への加入を促進しており、昨年の7月には、社会保険に加入していない中小零細企業など約80万社(事業所)を平成27年度から特定し加入させる方針を発表しています。

また日本年金機構は国税庁の保有する所得税の情報から社会保険の未加入事業を洗い出すようにし、より正確に未加入事業者を洗い出すようになります。

マイナンバー制度もこれら社会保険の未加入、未納問題への対策の一環です。

この制度によって、所得や他の行政サービスの受給状況を把握しやすくなり、負担を不当に免れることや給付を不正に受けることを防止することで、社会保障をこれまで以上にきめ細やかに、かつ的確に行うことができるのです。

 

4.社会保険未加入・未納のリスク まとめ

社会保険ついてはこれまで説明した通り、加入義務があり、近年は未加入、未納に対する調査や罰則規定が強化されてきています。

今後この動きがさらに強くなっていく可能性は高いと思われます。そのため、これから起業する方や、現在、社会保険の加入義務があるのに加入してない方がいらっしゃいましたら注意が必要です。社会保険料は労働保険などと比べると料率が高く、会社を経営していく上で資金繰りにも大きく影響してきます。雇用するときは給与の額面だけでなく、社会保険料を含めた各種の会社の負担金も含めて判断する必要があります。