また決算で見直せるような節税対策を教えて下さい。
決算月で行うこと
決算月で経理が行う業務は最低でも次の4つです。
- 実施棚卸を実施し、棚卸表を作成する
- 現金の期末日残高を実査し、現金出納帳との一致を確認する
- 領収書、納品書・請求書など帳簿の整理をする
- 回収不可能な債権の整理をする
決算月だからできる節税対策リスト
そしてこの決算月でできる節税対策は次の通り、チェックリストとしてまとめました。
- 30万円未満の備品の購入を検討しましたか?
- 翌期以降に修繕の予定があるものを、今期中に行う検討をしましたか?
- 決算月に社内旅行の実施を検討しましたか?
- 翌期以降に広告宣伝を予定している場合、今期中に行う検討をしましたか?
- 決算賞与の支給を検討しましたか?
- 給与の未払計上を検討しましたか?
- 中小企業倒産防止共済の加入を検討しましたか?
- 家賃の前払いを検討しましたか?
- 生命保険の加入、見直しを検討しましたか? ※法人の場合
- 小規模企業共済への加入を検討しましたか? ※個人事業主の場合
- 不要な償却資産の処分を検討しましたか?
以上です。たくさんありますが、一つ一つ解説いたします。
1. 30万円未満の備品の購入を検討しましたか?
資本金が1億円以下の青色申告法人については、取得価額が30万円未満の備品(少額減価償却資産)の購入は全額損金に計上することができます。
購入の予定があるものは、前倒しで今期中に購入を検討して下さい。
※少額減価償却資産の取得価額の合計額が300万円(事業年度が1年に満たない場合には25万円に事業年度の月数を掛けた金額。)が上限になります。
※取得価額は通常1単位として取引されるその単位ごとに判定します。例えば、応接セットはテーブルとイスのセットで30万円未満かを判定します。
2. 翌期以降に修繕の予定があるものを今期中に行う検討をしましたか?
修繕の予定があるものは、今期中に行うと今期の損金にすることができます。
ただし、修繕の内容が資本的支出に該当すると、減価償却資産計上となるので注意が必要です。
資本的支出とは、修理・改良することで、使用可能期間を延ばしたり、価値を高めたりすることとなる支出をいいます。
修繕費になるか資本的支出になるかが不明確な場合は以下をご確認下さい。
- ①無条件で修繕費として経費算入できる支出
支出の額が20万円未満または3年以内の周期によるもの - ②資本的支出か修繕費かが不明確な支出
支出の額が60万円未満またはその資産の前期末取得価額の10%以下であるものは、修繕費として損金算入することができる - ③資本的支出か修繕費かが不明確でかつ②の要件を満たさない支出
支出の額の30%またはその資産の前期末取得価額の10%のいずれか少ない金額を修繕費とし、残額を資本的支出とする経理をしている場合、修繕費とした金額を損金算入することができる※前期末取得価格・・・取得価格+資本的支出
3. 決算月に社内旅行の実施を検討しましたか?
決算月に社内旅行を実施すると、社内旅行の費用を今期の損金にすることができます。
また以下の要件を満たす場合、旅行の費用を旅行に参加した人の給与としなくてよいとされています。
- 旅行の期間が4泊5日以内であること
※海外旅行の場合には、外国滞在日数が4泊5日以内であること - 旅行に参加した人数が全体の人数の50%以上であること
- 相場と比較して高額な旅行でないこと
このとき、日程表や旅行費用の明細書等の資料は必ず保管するようにして下さい。
翌期以降に広告宣伝を予定している場合、今期中に行うことを検討しましたか。
4.翌期以降に広告宣伝を予定している場合、今期中に行う検討をしましたか?
広告宣伝に要する支出でも、内容によって4つの処理方法があります。①支出時の損金になるものが効果的です。
①支出時の損金になるもの
新聞・雑誌、テレビ・ラジオでの広告代やポスター・チラシ代
毎期おおむね一定量を取得し、経常的に支出、消費されている商品見本、カタログ、マッチ、カレンダー等の作製費用
工場見学者への試飲・試食の費用
一般消費者を対象に抽選で景品を贈ったり旅行に招待する費用等
②前払費用となるもの
テレビやラジオ、新聞広告のように契約期間の定めのあるものは決算時に未経過分を前払費用しなければなりません。
③繰延資産となるもの
自社製品の広告宣伝用に、特約店等に看板、ネオンサイン、陳列だな、自動車などの資産を贈与した費用は繰延資産に該当します
※ただし20万円未満のものは一時の損金にすることができます。
④固定資産となるもの
広告塔のような構築物、広告宣伝用の自動車、看板や広告器具などは固定資産に計上します。
5.決算賞与の支給を検討しましたか?
決算賞与の支給ルールを作成し、そのルールに則り決算賞与を支給することも検討して下さい。
その賞与は今期の損金となります。決算月に支払いをすれば損金になりますが、以下の要件を満たす場合、決算月の損金計上で、翌月支払とすることも可能です。
- 支給額を各人別に同時期に支給を受けるすべての使用人に対して通知(※1)していること
- 通知した金額を通知したすべての使用人に対して事業年度終了の日の翌日から1ヶ月以内に支払って(※2)いること
- 支給額を事業年度において損金経理(費用計上)していること
(※1)使用人から、通知を受けた旨のサインを貰っていくとなおいいです。
(※2)現金支払いの場合は領収書を貰って下さい。
決算賞与は、「使用人の権利」とならないよう一定のルールを作成することが重要です。
6.給与の未払計上を検討しましたか?
給与の締日が末日以外の場合は、締日から末日までの給与を経費として未払計上できます。例えば、20日締めの会社なら21日から末日までの給与を経費として未払計上ができます。
ただし、役員は委任契約で会社の業務執行を包括的に委任されていることから、日々の労働に対して対価を受ける従業員とは契約関係が異なるため日割りで報酬を未払計上することはできないことに注意して下さい。
7.中小企業倒産防止共済の加入を検討しましたか?
中小企業倒産防止共済の加入を検討して下さい。中小企業倒産防止共済とは、取引先の倒産の影響を受けて、連鎖倒産や経営難に陥ることを防止する為の共済制度です。
掛金は税法上、法人の場合は損金、個人の場合は事業所得の収入の必要経費に算入することができます。(個人事業主の方が掛金を必要経費として算入するには、「中小企業倒産防止共済掛金の必要経費算入に関する明細書」(任意形式)を作成し、確定申告書に添付する必要があります。)
掛金月額は5,000円~20万円で、前納申出書を提出することで、掛金を前納することができます。決算月に12ヶ月分を前納することで、短期前払費用(法基通2―2―14等)に該当するため、前納した今期の損金とすることができます。
40ヶ月以上かけ続けると100%の解約手当金を受け取ることができ、解約手当金は法人の場合は益金、個人の場合は事業所得の収入金額に算入することになります。そのため、解約手当金を受け取る事があらかじめ分かっているので、受け取るときは対策をしておく必要があります。
40ヶ月以上かけ続けないと100%の解約手当金を受け取ることができないので、キャッシュに余裕がある場合に有効な節税策になります。
8.家賃の前払いを検討しましたか?
家賃の1年分の前払いを検討して下さい。
家賃は短期前払費用(2―2―14)に該当するため、決算月に翌月からの分を前払い(最長1年)することで、支払った金額を今期の損金とすることができます。家賃の前払いの際は、大家さんとの間で前払いをする旨の契約書等が必要になりますので、年払いの前に大家さんに相談して下さい。
また、短期前払費用は継続適用しなければなりませんので、来期以降も前払いをすることになります。
9.生命保険の加入、見直しを検討しましたか?
生命保険の加入、見直しを検討して下さい。
生命保険を利用し、役員退職金等の原資を簿外で積み立てる方法です。保険の種類に応じて、以下の通り法人の損金とすることができます。平成24年に「がん保険」の取り扱いが変更になっているので、注意して下さい。
①定期保険の保険料(法基通9―3―5、9―3―6の2 他)
法人が契約者となり、被保険者を役員、使用人とする定期保険の保険料は、次に掲げる区分に応じ処理する。保険金受取人が
- 法人
期間の経過に応じて損金算入する - 被保険者の遺族
期間の経過に応じて損金算入する(※)
※役員又は特定の使用人のみを被保険者にしている場合は、その者に対する給与とする。
②養老保険の保険料(法基通9―3―4 他)
法人が契約者となり、被保険者を役員、使用人とする養老保険の保険料は、次に掲げる区分に応じ処理する。死亡保険金及び生存保険金の受取人が
- 法人
損金の額に算入されず、資産に計上する - 被保険者又はその遺族
その被保険者に対する給与とする(※1) - 死亡保険金の受取人が被保険者の遺族で、生存保険金の受取人が法人
支払った保険料のうち、1/2は、1により資産計上、残額は期間の経過に応じて損金算入する(※2)
※1当該保険料は、所得税の生命保険料控除の対象となる
※2役員又は特定の使用人のみを被保険者にしている場合は、その者に対する給与とする。
?③定期付養老保険の保険料(法基通9―3―4~6の2 他)
- 保険証券等により、定期保険と養老保険との保険料に区分されている場合
それぞれの保険料を上記①及び②に準じて処理をする - 保険証券等により、定期保険と養老保険との保険料に区分されていない場合
支払った保険料を全額養老保険とみなし、上記②により処理をする
10.小規模企業共済への加入を検討しましたか?
小規模企業共済への加入を検討して下さい。
小規模企業共済は、個人事業をやめられたとき、会社等の役員を退職したときなどの生活資金等をあらかじめ積み立てておくための共済制度です。加入資格は、常時使用する従業員が20人(商業とサービス業では5人)以下の個人事業主やその経営に携わる共同経営者、会社等の役員、一定規模以下の労働組合、協業組合、農事組合法人の役員の方です。
掛金月額は1,000円~7万円までの範囲(500円刻み)で自由に選べます。掛金は税法上、全額が「小規模企業共済等掛金控除」として課税対象となる所得から控除されます。また、1年以内の前納掛金も同様に控除できます。
11.不良在庫や不要な固定資産の処分を検討しましたか?
不良在庫の処分を検討して下さい。
大幅な値下げをしても売れそうになく、無価値の商品を実際に廃棄した場合、廃棄損として、当期の損失の額に計上することができます。損失として計上するためには廃棄をした証明を整備する必要がありますので、例えば廃棄業者の領収証や廃棄証明書等の客観的な資料を残すようにして下さい。不要な償却資産の処分を検討しましたか。
不要な固定資産がないか検討して下さい。
固定資産が滅失した場合、除却、譲渡等した場合、その時点の帳簿価額を損金算入することができます。
償却資産税の対象となるものであれば、償却資産税の無駄払いも解消されることになります。また、存在はするが実質使用不能なものは「有姿除却」が可能です。その場合は、帳簿価額から処分(売却)見積額を差引いた額を損金算入できます。
決算月こそ節税の対策どき
決算月は経理業務が繁忙になりがちですが、実際の業務だけでなく、決算月こそ見直せるものがたくさんあります。
また、節税対策に有効な手を打てるリミットは決算日の3か月前とも言われています。この日程より前であれば、不動産の購入・売却などより高い節税効果をあげる対策の選択肢が増えてきます。
本日ご紹介した「決算月 節税対策リスト」は、決算だけでなく日常の数字見直しと一緒に使える項目ですので、来期は計画的に盛り込んでバッチリ節税対策をしましょう。(税理士 辛島政勇)