海外勤務者の税金や保険に関する5つのポイント

企業規模の大小に関わらず、海外勤務が身近になり、税金や手続きについて困ることは多いのではないでしょうか。今回は、海外勤務者の税金や保険についてまとめさせていただきました。

  1. 納税義務の区分って?
    ・居住者、非居住者
    ・永住者、非永住者
    ・短期滞在者免税とは(183日ルール)
  2. 源泉徴収と年末調整は?
  3. 課税される手当の範囲は?
  4. 給与から控除するものは?
    ・労働保険
    ・社会保険
    ・住民税
  5. 確定申告は?

 

1. 納税義務の区分って?

居住者か非居住者か、永住者か非永住者かによって、税額や経理処理が異なるので納税義務の区分の判定が必要です。

・居住者、非居住者

  • 居住者
    国内に「住所」を有し、又は、現在まで引き続き1年以上「居所」を有する個人
  • 非居住者
    居住者以外

出張の場合、通常数か月程度のため、原則、居住者です。ただし、結果的に1年以上になったときは、1年を経過した日以降は非居住者になります。駐在の場合は、1年以上の滞在が予定されていたり、ビザを取得しての派遣であったり、長期にわたることが想定されていますので出国の日から非居住者になります(所令15-1-1)。

・永住者、非永住者

居住者は、さらに、永住者と非永住者に分かれます。

  • 永住者
    非永住者以外
  • 非永住者
    居住者のうち日本国籍がなく、かつ、過去10年以内の間に日本国内に住所又は居所を有する期間の合計が5年以下である個人

居住者・非居住者、永住者・非永住者による納税義務の判定は、下記の表をご参照下さい。

納税義務者の区分

・短期滞在者免税とは(183日ルール)

日本の非居住者に該当した場合でも、下記の3つの基準全てに該当すれば、海外での課税が免除されます。
これを「183日ルール」や「短期滞在者免税」と言います。

  • 滞在日数基準…滞在期間が合計183日を超えない。
    国ごとの租税条約によって、日数や数え方も異なり、国ごとに確認が必要。
  • 支払者基準…報酬支払者である雇用主が日本の居住者である。
  • 負担基準…日本で支払われる報酬等が外国企業によって負担されず損金にされていない。

 

2. 源泉徴収と年末調整は?

居住者に該当する場合、源泉徴収業務はこれまでどおりで問題ありません。
年の中途で居住者から非居住者になる場合は、下記のとおり、出国前に年末調整を行います。

【出国前】

  •  年末調整の対象となる給与
    出国する日までに支払の確定した給与
  • 所得控除
    ・社会保険料、生命保険は等は、出国する日までに支払われたものだけ。
    ・扶養控除や配偶者控除等は、出国の時に控除の対象となる者の控除が対象となります。
    ※控除対象となるかどうかの判定は、出国の時の現況、及び出国の時の現況により見積もったその年の1月1日から12月31日までの当該親族等の合計所得金額による。
    ・住宅ローン控除は、居住者が毎年12月31日まで引続きその住宅に居住している場合に適用。したがって、海外勤務者として年の中途で非居住者として出国した場合には、たとえ家族が引続きその住宅に居住していたとしても、出国の年以降は、同制度の適用を受けることができない。
    ※参考:国税庁HP→海外に転勤した人の源泉徴収

【出国後】

  • 使用人の場合
    非居住者となった使用人の海外勤務に対する給与に、日本の所得税及び復興特別所得税はかかりません。
  • 役員の場合
    内国法人の役員としての海外勤務に対する給与には、日本の所得税及び復興特別所得税がかかり、20.42%の税率で源泉徴収が必要。
    ただし、その役員が、支店長など使用人としての立場で、常時海外で勤務している場合は、源泉徴収は原則不要。

なお、賞与については使用人であっても、出国後に支払われる賞与のうち、賞与の計算期間内に日本で勤務した期間が含まれている場合、日本での勤務期間に対応する金額に対して20.42%の税率で源泉徴収が必要です。

帰国後に居住者となる人に支払う給与は、下記のとおり、帰国後に年末調整を行います。
出国と同じ年に帰国すると、出国時に年末調整をしていますが、帰国後の給与と合わせて再度年末調整を行います。

【帰国後】

  •  対象となる給与
    居住者となった日以後に支給されるものについては、その給与のうちに非居住者であった期間の勤務に対応する部分の金額が含まれていても、総額を居住者に対する給与等として所得税及び復興特別所得税を源泉徴収します。
  • 所得控除
    ・帰国日以後に支払った保険料等。
    ・扶養控除や配偶者控除等は一般の居住者である従業員と同様の取扱い。
    ・住宅ローン控除については、帰国後、再びその住宅に居住した場合には、その再居住年分以後については、再度、住宅ローン控除が適用可能。この住宅ローン控除の再適用を受けるためには、出国時までに所轄税務署に「転任の命令等により居住しないこととなる旨の届出書」を提出。帰国後、「住宅借入金等特別控除額の計算明細書(再び居住の用に供した方用)」等を添付して確定申告をする。

 

3. 課税される手当の範囲は?

海外勤務者に支払われることがある手当等について、具体的に、どう処理すべきか確認しましょう。

 ・支度金

海外勤務に伴い必要となる物資等を購入するために、赴任支度金を支給するケースがあります。この場合、海外勤務者の職務や地位によって通常必要と認められる範囲内のものであれば、給与非課税となり、旅費として取扱われます。

・語学研修費

会社が自己の業務遂行上の必要に基づき、社員の職務に直接必要な技術若しくは知識を習得させ、又は免許若しくは資格を取得させるための研修費用等については、適正な金額である限り、給与として課税しなくてもよいことになっています。

・社宅、レンタル家具、水道光熱費

来日外国人等の日本での居住に対し、社宅やレンタル家具を無償提供することや、水道光熱費を負担することは、経済的利益の供与として、給与課税の対象となります。社宅家賃に対しては、使用人又は役員の別、家屋の床面積により、課税すべき賃料相当の金額が異なります。レンタ ル家具や水道光熱費の会社負担額は給与課税の対象となります。

・ホームリーブ(HomeLeave)

国外において、概ね2年以上引き続き勤務する外国人に対し、就業規則等の定めるところにより概ね1年以上の期間を経過するごとに休暇のための帰国を認め、その帰国に要する往復の運賃程度(その者と生計を一にする配偶者その他の親族に係る支出を含みます)は、給与として課税しなくてもよいことになっています。
※帰国に係る運賃や時間、距離等の事情に照らし、最も経済的かつ合理的と認められる通常の経路及び手段によるものであることが必要です。

 

4. 給与から控除するものは?

・労働保険

出張か派遣または現地採用のいづれかにより、分類されます。

海外出張者は、 単に労働の提供の場が海外にあるにすぎず、国内の事業場に所属し、その事業場の使用者の指揮に従って勤務する労働者です。 海外派遣者は、 海外の事業場に所属して、その事業場の使用者の指揮に従って勤務する労働者またはその事業場の使用者(事業主およびその他労働者以外の方) をいいます。

現地採用は、外国企業が雇い主となって採用し、国内法の適用はなく、日本国内の社会保険および労働保険には加入できません。

労働保険
労災保険の特別加入とは、

  1. 日本国内の事業主から、海外で行われる事業に労働者として派遣される人
  2. 日本国内の事業主から、海外にある中小規模の事業に事業主等(労働者ではない立場)として派遣される人
  3. 独立行政法人国際協力機構など開発途上地域に対する技術協力の実施の事業(有期事業を除く)を行う団体から派遣されて、開発途上地域で行われている事業に従事する人

が該当します。

・社会保険

海外勤務の場合、勤務する国の社会保障制度に加入をする必要があり、日本の社会保障制度と保険料を二重に負担しなければならない場合が生じます。また、日本や海外の年金を受けとるためには、一定期間その国の年金に加入しなければならない場合があります。これら問題の「二重加入の防止」「年金加入期間の通算」のために、社会保障協定が締結されています。
社会保障協定を締結しているどうかはこちらでご確認ください→日本年金機構HP
さらに、派遣期間や現地採用か否かにより判定する必要があります。

社会保障協定

・住民税

賦課期日である1月1日に居住者か非居住者かで、その年の納税義務の有無が変わります。
賦課期日をまたいで、概ね1年以上海外で居住する場合は、日本国内に住所を有しないものとして取り扱われることとなり課税されません。

ケース1

ケース2

5. 確定申告は?

「2.源泉所得と年末調整は?」で前述したように、居住者から非居住者になる場合で、給与所得のみのときは、役員に該当しない限り、出国前に年末調整を行うことで、日本での課税関係は終了します。出国後の給与は国外源泉所得と考えられます。ただし、日本で不動産収入等を得ている場合など、出国後もなお給与所得以外の所得を得ている場合、引続き確定申告をする必要が あります。

確定申告

確定申告が必要な場合、自分に代わって確定申告をする人を選ぶ必要があり、この非居住者に代わって税務代行をするのが「納税管理人」です。

納税管理人とは、、、

  • 納税管理人は日本の居住者であれば誰でもよい。
  • 税務調査には原則として応じる義務がある。
  • 納税義務を負うのは納税義務者本人。

納税管理人を定める手続きは、、、

  • 納税管理人を定めたときには、納税地を所轄する税務署に「納税管理人の届出書」を提出。
  • 納税地を所轄する税務署とは、納税管理人を選任した納税義務者本人の納税地のことであり、納税管理人の納税地ではない。

となります。

以上いかがでしたでしょうか。
国によって違う部分はありますが、租税条約等を確認して適正に対応しましょう。