部門間交流(消費税・印紙税)……元税務調査官のエピソード

税務署と一口に言っても色々な部門がある。私達税務調査官も、時に部門を渡り歩いて自分の仕事の幅を広げることがある。それがいわゆる「部門間交流」である。

平成2年7月10日、私は兵庫県東部のある税務署の法人課税部門から間税部門に配置換えとなった。当時の間税部門は、消費税及び酒税、印紙税、揮発油税など間接諸税の税目を担当していた。部門間交流後は、習得した消費税及び印紙税の知識を法人課税部門で活かすこととなっていた。ちなみに関税部門はこの1年後、国税庁の機構改革によって消滅している。

消費税は今でこそ一般的に定着した税金だが、当時はまだ創設されて1年数か月しか経っておらず、質問の電話や来客が非常に多かったのを鮮明に覚えている。免税事業者や簡易課税選択制度など様々な制度もあったり、運用に関する参考資料が少なかったりして、大変苦労したものだった。消費税の説明会も通常の事務年度に比べて相当多く、会場や講師の手配、説明会後の質問に対する回答などで本当に忙しかった。

消費税の申告・納付を行う事業者の方の中には「消費税を得意先に転嫁できない」と間税部門の窓口に愚痴をこぼす人もいた。創設当初の消費税の転嫁の件は大変だったと思う。

消費税以外では印紙税に悩まされた。印紙税は文書課税であり、法人税や所得税などと性質が異なる。注文書などの申込書でも契約書に該当するケースがあったり、請求書等でも領収書(第17号文書)に該当するケースがあることなど、法人課税部門出身の私には理解するのが大変だった。

注文書が契約書になるケース

次のケースは契約を証明する目的で作成された文書として契約書になり、課税文書に該当する場合は、印紙税が課税される。

  1. 契約当事者の間の基本契約書、規則又は約款等に基づく申込みであることが記載されていて、一方の申込みにより自動的に契約が成立することとなっている場合における当該申込書等。
    ※ただし、契約の相手方当事者が別に請書等契約の成立を証明する文書を作成することが記載されているものを除く。
  2. 見積書その他の契約の相手方当事者の作成した文書等に基づく申込みであることが記載されている当該申込書等。
    ※ただし、契約の相手方当事者が別に請書等契約の成立を証明する文書を作成することが記載されているものを除く。
  3. 契約当事者双方の署名又は押印があるもの。

※参考……印紙税基本通達21条(申込書等と称された文書の取り扱い)

 

請求書や納品書などが領収書(第17号文書)に該当するケース

受取事実を証明するために請求書や納品書などに「代済」「相済」「了」などと記入したもの、さらに、お買上票などと称するもので、その作成の目的が金銭又は有価証券の受領事実を証するものであるときは、ここにいう金銭又は有価証券の受取書に該当する。

私の調査官人生において、最も税法(消費税、印紙税)知識を習得したのは間税部門交流中の期間だったように思う。その後、法人課税部門に戻ってからこの間に得た知識は大いに役に立った。20年以上の調査官人生の中でのたった一度、しかも僅か1年間の部門間交流だったが、私にとっては3年以上の価値がある時間だった。

参考…消費税調査対策チェックリスト

1. 課税売上関係

  • 現金等の収受がなくても課税売上になる。
  • 法人の役員等に無償で譲渡等を行った場合に課税売上高に計上しているか
  • 法人の役員等に低額(概ね50%未満)で譲渡した場合は差額を課税売上高に計上しているか
  • 代物弁済による資産の譲渡を課税売上高に計上しているか
    ※代物弁済の課税売上の額は、代物弁済により消滅する債務の額である。

課税売上計上額誤りに要注意。

  • 下請先に原材料を有償支給した場合に課税売上高に計上しているか
  • 固定資産等を売却して未経過固定資産税等を収受した場合に課税売上高に含めているか
    ※買主から受け取る未経過固定資産税等は、固定資産等の対価の額に含まれるものである。
  • 源泉所得税を控除した残額を収受した場合に控除前の金額で課税売上高に計上しているか
  • 土地の貸付期間が一か月に満たない場合は、課税売上にしているか。
    ※土地の貸付は非課税売上だが、貸付期間が1か月未満の場合は、非課税規定から除外され課税売上となる。

2.課税仕入関係

  • 外注費(課税)と給与支払(不課税)の区分を明確にしているか
  • 出向負担金を課税仕入れにしていないか
  • クレジット手数料を課税仕入れにしていないか
  • 海外出張(国外分)のために支給する旅費、宿泊費及び日当を課税仕入れにしていないか
  • 燃料費で軽油引取税が区分記載されいる場合は、軽油本体部分のみを課税仕入れにしているか
    ※特約店等で、軽油を購入した際に軽油本体に価格と軽油引取税が明確に区分されているときに課税仕入れにできるのは、軽油本体のみで、軽油引取税は課税仕入れにできない。
  • 費途不明の交際費を課税仕入れにしていないか
  • 御礼金や寄付金を課税仕入れにしていないか
  • 社宅を課税仕入れにしていないか

3.仕入れに係る消費税の調整

  • 取引先から支払を受ける販売奨励金等は、仕入れに係る対価の返還にしているか
  • 調整対象固定資産については、調整対象の必要性について検討しているか
  • 一括比例方式の場合は2年間以上継続して適用しているか
  • 個別対応方式の場合は(課税のみ、共通、非課税のみ)に区分されているか
  • 課税売上が5億円超の場合は、全額控除せずに仕入税額控除の計算をしているか
  • 課税事業者になった課税期間に期首の棚卸資産(課税)を課税仕入れにしているか
  • 免税事業者になる場合の期末棚卸資産(課税)を課税仕入れから減算しているか

4.売上に係る対価の返還等をした場合の消費税の控除

  • 免税期間の売上の返還を対価の返還等として消費税の控除をしていないか
  • 課税売上と非課税売上高を一括して売上割り戻した場合に、割戻金を合理的に区分しているか

5.貸倒れに係る消費税の控除

免税期間の売掛金の貸倒れについて消費税の控除をしていないか

6.簡易課税関係

  • 基準期間の課税売上高は5千万円以下か
  • 過去に「簡易課税選択届出書」の提出の有無を把握しているか
  • 事業用の固定資産の売却を第4種事業にしているか
  • 製造業でも加工賃等を対価とする役務の提供は第4種事業にしているか
  • ケーキ屋などで製造した商品を直接消費者に販売する場合は、第3種事業にしているか
    ※製造小売行業は第3種事業に該当する。
  • 第3種事業に該当する建設業、製造業の事業で生した加工くず、副産物等の譲渡を第3種事業にしているか
  • 修理業などの事業区分の判定が難しい業種については事業内容と把握して事業区分を判定しているか
  • 2以上の事業を営む場合に、事業の区分及び区分記載がされているか

7.納税義務の免除(申告不要)

  • 基準期間が免税事業者であった場合の課税売上高の判定を税込金額で判定しているか
  • 基準期間が1年未満の法人は、年に換算して基準期間の課税売上を判定しているか
  • 基準期間の課税売上高に輸出免税売上高を含めているか
  • 特定期間の判定を行っているか
  • 新設法人には該当しないか
  • 平成26年4月1日以後に設立する法人は、特定新規設立法人に該当しないか
  • 課税事業者選択届出書を提出していないか

8.その他

  • 仕入税額控除の要件の「帳簿及び請求書等の保存」を満たしているか
  • 税抜経理を採用している場合において、仮払消費税等及び仮受消費税等の清算を決算終了時に行っているか