元税務調査官が語る「調査官の攻める視点:人件費・雑収入編」

今回も引き続き、攻める側の税務調査官が帳簿や証票類等からどのようにして人件費・雑収入を調査するかをまとめていく。後半では、雑収入計上に関する調査事例について紹介しよう。

売上計上については前々回の記事を、仕入・外注・棚卸については前回の記事を参照いただきたい。

  • 税務調査官の視点(人件費編)
    1.?給料、賞与の検討
    2.?労務費の検討
  • 税務調査官の視点(雑収入編)
  • ?税務調査事例(雑収入編)

税務調査官の視点(人件費編)

1. 給料、賞与の検討

正社員よりも、短期アルバイトなどの雑給が源泉徴収も含めて問題点が発生しやすいため、雑給を中心に検討するケースが多い。人件費の検討に当たっては、机、ロッカー、配席図、組織図、氏名ゴム印などからも確認する。

  1. タイムカード(出勤簿)の検討
    税務調査官の着目点:出退社時間がほぼ一定又は経理担当者と同一の者は要注意。
  2. 業務日報からの勤務状況の検討
  3. 給与(賃金)台帳の検討
    税務調査官の着目点:源泉徴収、年末調整がない、社会保険の適用がない、各種控除がない、ラウンド数字の固定給、諸手当の支給がない
  4. 経理担当者以外の従業員に対しても、勤務状況等の質問調査を行うケースがある。
  5. 住民税課税台帳及び住民登録の確認(市町村への反面調査)を行うケースがある。

2. 労務費の検討

  1. 現場責任者が作成している出面帳、作業日誌の検討
  2. 有償支給される地下足袋や手袋の支給状況の検討
  3. 賄費(食事代)、貸布団代などの徴収の有無から検討

税務調査官の視点(雑収入編)

雑収入は、単発、臨時的取引が多く、計上漏れなどの問題点が発生しやすいので、業種・業態を十分把握してから検討する。

  1. 貸倒損失として処理した債権を回収したもの
  2. スクラップ、副産物、廃液等の処分益
  3. 外注先に対する機械、重機、車両、工場内事務所等の賃貸料収入
  4. リベート、販売(促進)協力金収入
  5. 工事附帯収入(残材」の処分益など)

※計上漏れなどの可能性が大きい場合は、相手先への反面調査を行うケースがある。

税務調査事例(雑収入編)

建設業を営む(株)A社は設立10年目の会社で、B社長の営業力のおかげで業績は順調だった。

(株)A社には、本社事務所の近隣に過去に資材置場としていた会社名義の更地があったが、2年ほど前から更地の一部を、B社長の個人的な知人のCに自動車の駐車スペースとして使用させていた。

なお、Cは毎月の駐車代をB社長の要望で法人名義の預金口座に振り込むのではなく、B社長の個人預金口座に振込むようにしていた。B社長は真面目な性格だが、金額も毎月2万円程度で少額だったため、つい出来心をおこしてしまったようだ。

その後・・・後日、(株)A社の税務調査が行われ、事前に担当調査官は更地に自動車が駐車されている事実を把握しており、担当調査官から質問調査されたBさんは「無料で駐車させている」と回答したが、不審に思った担当調査官は、税務署に戻ってから、統括官(課長級)に復命して指示を仰いだところ、「銀行調査を実施して(株)A社の主要関係者の個人預金口座を把握せよ」と指示を受けた。

数日後、銀行調査を実施して駐車代金が振り込まれている個人預金口座を把握した担当調査官からB社長は追及されるとともに、Cに対しても反面調査が行われ、駐車代収入を計上せずに、小遣いとして消費した事実を認めた。

(その結果)

当然のことながら、追徴税額は重加算税(本税の35%)対象となり、Cさんにも迷惑をかけてしまった。