元税務調査官が語る「税務調査事例集」

今回は、元税務調査官である税理士の前原が経験した税務調査事例について掲載いたします。

  • 事例1 誘惑の架空値引
  • 事例2 暑さ対策だけでなく、経理処理もしっかりと!!~雑収入編~
  • 事例3 税務調査では分散の術は通用しない!!~源泉所得税編~

事例1 誘惑の架空値引き

文房具卸販売を営む(株)A社は今期(3月31日決算)の業績が好調で、例年以上の所得計上が見込まれました。しかし売上先が500社以上もあることと、世の中全体が不景気ということが重なり、未回収の売掛金も前期に比べてかなり増加していました。

社長のBさんは仕事熱心で真面目な性格でしたが、資金繰りの関係もあり、少しでも納税額を減らしたいという気持ちが先走ってしまい、悪いことと思いながらもふと悪知恵を使ってしまいました。

Bさんの手口は、決算期末付近に架空の売上値引(相手勘定:売掛金減算)を計上して、利益を圧縮する方法でした。

税務署に提出する法人税申告書等の売掛金明細書には、主要な売上先の売掛金の残高のみを記載して、その他は「その他売掛金」一本で記載して、申告書上では脱法行為が判明しないように細工しました。

その後……

後日(株)A社に税務調査が行われ、税務署の担当調査官は決算期末付近の売上値引きの内容について、社長のBさんと経理担当者に質問しましたが、曖昧な回答しか返ってこなかったため、売上値引を丹念に検討したところ次の点に疑問を感じました。

  1. 売上値引の内容(明細等)が明確でないこと。
  2. 経理担当者が作成している売上集計表の期末の売掛残高と決算期末の売掛残高が不一致であり、差額については売上値引と一致すること。

売上値引について不審に思った税務署の担当調査官は、社長のBさんと経理担当者を厳しく追及したところ、観念したBさんは決算期末付近に架空の売上値引を計上することによって利益を圧縮した事実を認めました。

その結果……

当然のことですが、追徴税額は重加算税(本税の35%)対象となり、本税以外に、重加算税や延滞税などの余分な税金を払うことになりました。

 

事例2 暑さだけでなく、経理処理もしっかりと!!~雑収入編~

ある暑い夏、金属製造業を営む(株)P社の工場内では、従業員たちが汗を流しながら必死に働いていました。社長のAさんは、懸命に働く従業員に感謝するとともに、何よりも従業員の健康状態を気遣っていました。

その時、定期的に訪れるスクラップ回収業者が訪れ、いつものようにスクラップを回収してスクラップ代金を現金で社長のAさんに渡しました。
通常であれば、スクラップ代金の現金を経理担当者のCさんに渡して、雑収入として計上していたのですが、Aさんの脳裏に汗だくになりながら懸命に働く従業員の姿が浮かび、握りしめた現金を従業員の代表にジュース代として渡しました。
それからは、スクラップ代金をジュース代として経理を通さず従業員に渡すという習慣ができてしまいました。

その後……

後日、税務調査が入り、スクラップ収入に関する資料情報を携えた税務署の担当調査官にスクラップ収入を計上しなかったことがバレてしまいました。

その結果……

当然のことですが、追徴税額は重加算税(本税の35%)対象となりました。またスクラップ回収業者に対する反面調査が実施され、スクラップ回収業者にも迷惑を掛けてしまいました。

 

事例3 税務調査では分散の術は通用しない!!~源泉所得税編~

金属加工業を営む(株)E社の社長のYさんは1週間後に税務調査を控えており、不安でたまりませんでした。

実はYさんには、従業員Cさんの源泉徴収に関する秘密がありました。

Cさんは非常に腕のよい職人でしたが、頑固な性格で国からは何一つの恩恵も受けていないので源泉所得税は絶対に払わないという主義でした。
社長のYさんもCさんに退職されては困るので、源泉徴収をしないようにしていました。

その方法は、Cさんの給料を架空のアルバイト4人に分散することでした。例えば、Cさんの月給30万円を架空のアルバイト4人に一人当たり7万5千円に分散する手口で源泉所得税を0円にしていました。

税務調査当日……

税務署の担当調査官は、事業概況の聴取及び工場内の実地確認を行い、アルバイト(架空計上)の人件費に関して疑問を感じたため、各アルバイトの住所、連絡先などの個人情報及び勤務状況等を中心に徹底的に調査しました。

その結果……

従業員のCさんの源泉徴収を逃れるために、給料を架空のアルバイト4人に分散していた事実がバレました。そして当然のことですが、Cさんは源泉所得税のほか、重加算税(本税の35%)対象として追徴課税されました。

しかし、社長のBさんはこの秘密がバレたことによって精神的には楽になったようでした……