元税務調査官が語る「知られざる調査官の会話術」

税務調査では書類の調査とともに「聞き取り」も重視される。今回は、攻める側の税務調査官が守る側の経理担当者に対して、どのように質問調査を行うかをまとめてみた。後半では消費税増税時に想定される調査ポイントについて紹介しよう。

  • 税務調査は質問に始まり、質問に終わる!?
  • 税務調査官は変化球を投げる!
  • 同じ質問には要注意
  • 消費税増税時の調査のポイント

1.税務調査は質問に始まり、質問に終わる!?

①質問の進め方

要点を整理して簡潔・明瞭に。難解な言葉や法律専門用語は極力避け、要領よく進める。

②質問の場所

質問の相手に問いただし、応答してもらうのに合理的と認められる場所で行う。

  • 本支店、事業者の事務室
  • 不正計算の行為又は発見した場所
  • その他事業の実態把握に便利な場所等

税務調査官が確認を行う8原則

  1. 誰が… 人物
  2. いつ… 日時
  3. どこで… 場所
  4. 何を… 取引事項
  5. 何をもって… 用具・数量
  6. なぜ… 動機
  7. どのようにして… 手段・方法
  8. どうしたか… 結果

税務調査官が質問を行う際に意識していること

  • 相手にわからない税務の専門用語は使用しない
  • 相手に話す機会を与え、途中でさえぎらない
  • 相手の自尊心を傷つけない
  • 最悪の場合でも相手方の全ての者と対立しない
  • 短気、せっかちを避け、腰くだけにならない

 

2.税務調査官は変化球を投げる!

税務調査官は、質問調査や説得に行き詰ったときは、あらゆる手法によって現状打開に努める。

感情的対立

  1. 深呼吸したりその場を外すなどして、早く冷静になる。
  2. お互いの意見の調整、事実の再確認により、問題解決を図る。

回答拒否

  1. 次の手順により説得する。
    イ 無理に回答を迫るつもりではない。
    ロ 回答を拒否すれば、なお不利になる。
    ハ 税務調査は犯罪捜査ではないから、黙秘権はない。
    ニ 不答弁、虚偽答弁に対する罰則規程が税法にある。
  2. 穏やかな雰囲気の中で、き然たる態度で臨むこと。

沈黙

相手が沈黙してしまった原因を把握し、それに応じた措置を採る。

  1. 攻める側の税務調査官に問題がある場合、相手に真意が伝わっているか否かを自省し、再度よく説明してその内容が相手に理解できるように努める。
    帳簿、商品の流れを再検討し、相手が本当に知らないのか、権限外のことなのかを判断し、適切な他の相手を見つける。
  2. 守る側の経理担当者に問題がある場合、質問の本論を強行せず、話題を変えてみる。
    調査を円滑に進展させるために、その者の個人的・職務上の苦心談や成功談を聞くなどして、対話がスムーズになってきた時を見計らって、徐々に本論に戻す。

 

3.同じ質問には要注意

税務調査官が同じ質問を2回以上繰り返すときは要注意である。

税務調査官は、回答内容を忘れたから何度も質問を繰り返しているわけではない。
最初の回答と2回目以降の回答が異なっていないかによって、真実か否かの確認を行っている。

税務調査官は全てを観察している

守る側の経理担当者が回答するときの表情や仕草などを細かく観察し、真実の回答をしているか否かの確認を行っている。

 

4.消費税増税時の調査のポイント

平成26年4月1日から消費税が8%に増税されるが、想定される調査ポイントを平成9年4月1日の5%増税時に行なった調査経験をもとにまとめてみた。

損益の計上時期によるもの

  1. 平成26年4月1日以降に計上すべき課税売上を平成26年3月31日以前に計上することによって、増税部分を逃れていないか。
    ※主に法人所得及び法人税額の影響のない3月決算以外の法人等が行うケースが多いが、3月決算でも赤字法人など、所得に影響があっても税額に影響がない場合は、行うケースもある。
  2. 平成26年3月31日までに計上すべき課税仕入れを、平成26年4月1日以降に計上することによって8%の仕入税額控除を行っていないか。

経過措置に関するもの

  1. 平成25年10月1日以降に契約を締結したにもかかわらず、平成25年9月30日以前に契約締結したことに仮装して、不当に経過置適用を受けていないか。
  2. 契約締結日以外の適用要件についても満たしているか。

平成9年4月1日増税時の税務調査事例(指定日 平成8年10月1日)

建設工事業を営む(株)A社の税務調査の際、経過措置適用工事ついて確認を行ったところ、現況調査等で把握した見積書及び注文書の日付が平成8年11月以降になっているにもかかわらず、契約書の日付が平成8年9月30日以前になっており不審が認められたため、社長に対し質問調査をするともに、相手先にも反面調査を実施した結果、契約締結日が平成8年11月にもかかわらず、平成8年9月以前に仮装し、不当に経過措置の適用を受けていた事実が確認された。