税務署は国税庁の1支店であり、故に全国的な情報収集能力をもっていることはこれまでに何度か紹介している。今回は資料情報に関する調査事例について。後半は、知っていなければ痛い目に合う印紙税の注文書の取扱いについて説明する。
- 支払請求書改竄による利益圧縮(期末未成工事支出金除外)
- 仕入割戻(リベート)収入除外
- 印紙税の注文書の取り扱い
1. 支払請求書改竄による利益圧縮(期末未成工事支出金除外)
工事業を営むA社は今期(3月31日決算)の業績が好調で、例年以上の所得計上が見込まれた。社長のBは、納税額を少しでも減らして今後の事業資金に残したいという気持ちが先走ってしまい、悪いことと思いながらもふと悪知恵を使ってしまった。
Bの手口は、期末において未成工事支出金に計上すべきC社への山川ビル補修工事の外注費を、既に完成売上高に計上した倉田ビル補修工事の外注費に仮装することにより、未成工事支出金を除外して、利益を圧縮する手口だった。
C社の社長にも協力を要請し、支払請求書の工事名の改竄も行ったことによって、税務署にはバレないだろうとタカをくくっていた。
時が過ぎ社長のBの知らないところで大きな動きがあった。C社に税務調査が入ったのである。
C社の担当調査官が売上を検討したところ、A社への請求書のうち、工事名が「倉田ビル補修工事」となっているにも関わらず、工事日報及び仕入・外注費、労務費の関連から検討した結果、山川ビル補修工事であることが疑われるものがみつかった。C社の社長を問い詰めたところ、得意先のA社の要請を断れずに請求書の工事名を改竄したことを答弁した。
その後、C社の担当調査官は資料情報を作成して、A社を所轄している税務署に送付した。資料情報を受け取った所轄税務署はA社を調査対象先に選定して、直ちに税務調査を実施することにした。
やがてA社の税務調査が実施されたが、C社の社長から「請求書の工事名の改竄がバレた」との連絡を受けていた社長のBは、あっさりと観念して、支払請求書の工事名を改竄することによって期末未成工事支出金を除外して利益圧縮していた事実を認めた。
(その結果)
当然のことだが追徴税額は重加算税(本税の35%)対象となった。
2.仕入割戻(リベート)収入除外
繊維卸売業を営むD社の社長Eは仕事熱心で非常に真面目な性格であったが、ある秘密をもっていた。
仕入先のF社からの仕入割戻(リベート)収入を個人名義の預金口座に振込ませることによって、A社からの収入を計上せずに自分の小遣いにしていたのだった。
時が過ぎ社長のEの知らないところで大きな動きがあった。F社に税務調査が入ったのである。
F社の担当調査官は、D社に対するリベート支払いが個人名義の預金口座への振込みになっていることに着目した。後日D社の所轄税務署に照会し、リベートの支払口座がD社の社長名義だということが判明するとともに、D社の法人税申告書に添付されている決算書及び勘定科目内訳書にも記載がなかったことから、収入除外が想定された。そこですぐに資料情報を作成してD社の所轄している税務署に送付した。
資料情報を受け取った所轄税務署はD社を調査対象先に選定し、直ちに税務調査を実施することにした。
その後、D社の税務調査が実施されたが、仕入割戻(リベート)の収入除外が想定されるとあってか、担当調査官の追及は厳しいものとなった。結果、仕入割戻し(リベート)の振込先のB名義の預金口座のある銀行だけではなくF社にも反面調査が実施されて、収入除外がバレてしまった。
(その結果)
当然のことだが追徴税額は重加算税(本税の35%)対象となり、F社にも迷惑をかけてしまった。
3.印紙税の注文書の取り扱い
工事業を営むH社の社長のKは、非常に真面目で几帳面な性格であったが、先月H社の税務調査が実施され、税務署の担当調査官から下請けに交付している注文書の印紙税について指摘があった。
担当調査官からの指摘事項
下請けに提出する注文書についても契約書になるケースがある。
・契約書になるケース(印紙税法基本通達第21条)
申込書及び注文書等などの文書は、原則的には契約書に該当しないが、次のケースは契約を証明する目的で作成された文書として契約書になり、課税文書に該当する場合は、印紙税が課税される。
- 契約当事者の間の基本契約書、規則又は約款等に基づく申込みであることが記載されていて、一方の申込みにより自動的に契約が成立することとなっている場合における当該申込書等。
ただし、契約の相手方当事者が別に請書等成立を証明する文書を作成することが記載されているものを除く。 - 見積書その他の契約の相手方当事者の作成した文書等の基づく申込みであることが記載されている当該申込書等。
ただし、契約の相手方当事者が別に請書等契約の成立を証明する文書を作成することが記載されているものを除く。 - 契約当事者双方の署名又は押印があるもの
契約書に該当する例
下記に示すH社が下請けに交付している注文書
・契約書に該当する理由
「平成○年○月○日付貴見積書第○号・・・・注文いたします。」の文言があり、上記2.に該当し契約書として取り扱う。
担当からのアドバイス
見積書等の記載があっても契約書に該当しないケース
下記に示すような注文書は契約書には該当しない
・契約書に該当しない理由
「なお、注文をお引き受けの場合には、請書を提出願います。」の文言あり、上記2.のただし書きに該当し、契約書として取り扱わない。