元国税調査官が語る「攻める手法:組織力編」

税務調査は国税庁という巨大な組織の力をフルに活用して行われる。攻める側の税務調査官がその力をどのように利用しているか、今回はその点を紹介していこう。

目次

  1. 税務署は国税庁の一支店
  2. 準備調査も組織戦!?
  3. 税務調査本番には応援部隊が控えている!?

参考:反面調査と連携調査

 

1. 税務署は国税庁の一支店

これまで何度も触れてきたが、税務署は全国展開している国税庁という大組織の中の一支店である。その情報収集能力は強大であり、税務調査対象の企業の取引情報を調査する前段階である程度把握している。
また、他官庁や市町村と協力関係にあるため、社長を含めた役員や主な従業員(経理担当等)の収入状況及び家族状況などの個人情報も把握している。
また税務調査官は国税専門官採用または国家公務員III種採用にかかわらず、一定期間、全寮制の研修生活を経験している。このため税務調査官どうしの結びつきは強く、先輩・後輩・他部門の調査官との情報交換、アドバイスのやり取りは活発に行われている。
さらに税務署内で頻繁に行われる研修の他、日常のコミュニケーションにおいて調査手法が先輩から後輩に伝授される文化があり、困ったときには互いに助け合う体制が構築されている。

 

2. 準備調査も組織戦!?

税務調査官が本番の調査前に行う準備調査についても組織力を十分に用いて行っている。

2-1. 準備調査の主な内容

  • 過去5年分の申告書の見直し作業
  • 過去5年分の申告状況の推移の検討
    ※異常計数の抽出作業
  • 過去の調査状況
  • 資料情報のチェック
  • 取引先の状況
  • 外観調査(現金商売等は内偵調査)
  • 代表者の個人の申告状況の確認
    ※代表者の自宅の外観調査を行うケースもある

2-2. 準備調査の流れ

調査官は必ず準備調査結果を上司の統括官(課長級)に提出して指示を仰ぐことになっており、担当統括官は指示事項を準備調査表に記載して調査官に返却する。
※担当統括官の指示事項は、必ず税務調査時に確認することになっている。

2-3. 準備調査においての主な組織戦

  1. 代表者等の役員および主な従業員の収入状況や家族状況は、所轄税務署および住所地の市町村に照会して内容把握を行う。
  2. 資料情報や提出された申告書等から調査ポイントになる取引先を把握した場合は、取引先の所轄税務署に照会し、申告内容も含めた取引先の状況を確認する。
  3. 貸倒損失の計上がある場合は、貸倒れの債務者の所轄税務署及び居住場所の住所地に照会して債務者の状況を確認する。
  4. 過去に税務調査が実施されている場合は、当時の調査担当者から過去の調査状況の聴き取り確認を行うケースがある。

 

3. 税務調査本番には応援部隊が控えている!?

3-1. 調査官の所属部門が応援部隊!?

税務署の組織は総務課を除いた、課税部門及び徴収部門などの一般会社の課に当たる部門制によって編成されており、課長級の統括官を筆頭に上席調査官、調査官、事務官など6~8名程度の人数で編成されている。
仮に調査事案が当初の想定以上に困難で調査人員の増員が必要な場合は、同じ部門のメンバーが日程などを考慮して応援する体制が構築されており、相当数の反面調査が必要な場合も同じ部門のメンバーで手分けして実施している。

3-2. 専門分野の応援部隊

現在の多様化した経済取引の税務調査に対応するため、専門分野の調査官を大規模な税務署に配置して近隣の税務署が実施している税務調査の支援などを行っている。
また、印紙税などの間接諸税や源泉所得税などの専門知識が必要な税務調査の場合は、大規模な税務署に配置されている広域担当の調査官が、近隣の税務署が実施する税務調査の支援を行っている。

  • 国際税務専門官……国際取引のある会社に対する税務調査支援を担当する。
  • 情報技術専門官……電子機器によって経理及び取引管理している会社に対する税調査支援を担当する。
  • 機動官……資料収集を行うとともに、困難調査などの調査支援を担当する。

※各専門分野の調査官の詳細については「元税務調査官が語る「組織力その2」」を参照してほしい。

3-3. 上司(統括官)への復命も、時には調査事案検討会?

調査官は必ず帰署後に、上司(統括官)にその日の調査状況の復命を行うことになっているが、場合によっては同じ部門の上席調査官以下のメンバーが同席して過去の経験を踏まえた意見を出し合って、より効率的且つ効果的に調査が実施できるようにアドバイスすることもある。経験の少ない調査官でも、統括官を含めた経験豊富な複数のアドバイザーが付いているので油断禁物である。

 

参考:反面調査と連携調査

反面調査

反面調査とは、調査先のみでは事実関係の確認が困難な場合、調査官が取引先や銀行に臨場して事実確認を行う調査のこと。

連携調査

連携調査とは、同族会社のある会社の税務調査や取引関係の解明が困難とされる会社の調査について、関係会社とともに同時期もしくは直前直後に税務調査を行い、調査担当者同士で互いに調査情報を共有することによって、調査効率を高めて全容解明を行うことを目的とした調査である。