元税務調査官が語る「税務署の組織力 その2」

今回は「税務署の組織力」に続き、税務署の法人調査部門のさまざまな専門分野の調査官についてまとめてみた。後半では連携調査について税務調査事例を交えて紹介しよう。

  • 様々な税務調査官
  • 特殊な特別調査官
  • 連携調査とは?

様々な税務調査官

現在の多様化した経済取引の税務調査に対応するため、各専門分野のスペシャリストが調査官として配置されている。

特別調査班

  • 第2部門などに配置され、大口不正(脱法行為)が想定される会社の税務調査を行う。
  • 原則、事前通知なしで複数の人数で税務調査を行う。
    ※小規模の税務署などには、特別調査班が配置されていない。

機動官

  • 大規模の税務署に配置され、周辺の複数の税務署を併任して、資料収集を行うとともに、困難調査などの調査支援を担当する。

国際税務専門官

  • 大規模の税務署に配置され、周辺の複数の税務署を併任して、国際取引のある会社に対する税務調査支援を担当する。
  • 国際税務専門官には、国際税務専門官(課長級)の他に付職員として、上席調査官以下の調査官が配置されている。

情報技術専門官

  • 大規模の税務署に配置され、周辺の複数の税務署を併任して、パソコン(電子機器)によって経理及び取引管理している法人に対する税調査支援を担当する。
    ※主に規模の大きい会社の税務調査の支援を行う。
  • 情報技術専門官には、情報技術専門官(課長級)の他に付職員として、上席調査官以下の調査官が配置されている。

源泉機動調査専担者

  • 大規模の税務署に配置され、周辺の複数の税務署を併任して、源泉所得税に関する困難調査を担当する。

間接諸税指導担当者

  • 大規模の税務署に配置され、周辺の複数の税務署を併任して、間接諸税(主に印紙税)に関する困難調査を担当する。

特殊な特別調査官

特別調査官とは、税務署の副署長級・課長級で、税務署所管(資本金が1億円未満が大部分)の中で、規模の大きい会社の税務調査を担当するが、大規模署には特殊な調査担当の特別調査官が配置されているので紹介しよう。

総合特別調査官

  • 税務署の副署長級で、大規模署の税務署に配置され周辺の複数の税務署を併任している。
  • 全ての税目の税務調査を一度で行う総合調査を担当。
    ※税務署の法人調査部門の調査官及び法人の特別調査官は、調査対象の会社の法人税及び消費税、源泉所得税、印紙税などの調査を行うが、会社の社長の所得税または相続税の調査は行わない。総合特別調査官は、通常の法人調査担当が行う調査に加えて、相続税などの全ての税目の調査を、一度に行う総合調査を担当する。
  • 総合特別調査官には。付職員として複数の上席調査官以下の調査官が配置されている。

開発特別調査官

  • 税務署の副署長級で、大規模の税務署に配置され、周辺の複数の税務署を併任している。
  • 新ビジネスに関する資料収集
  • 新たな資料源開発(有効な資料情報を多量に収集できる手法を開発)

連携調査とは?

連携調査とは、同族会社のある会社の税務調査や取引関係の解明が困難とされる会社の調査について、関係会社とともに同時期もしくは直前直後に税務調査を行い、調査担当者同士で互いに調査情報を共有することによって、調査効率を高めて全容解明を行うことを目的とした調査である。

<調査事例>

(株)A社(3月決算)は、古くから親しい㈱B社(6月決算)に対する平成25年3月25日納品の売上を平成25年4月分の売上にすることによって平成25年3月期の売上を除外し、利益調整を行っていた。(株)B社としては6月決算で自社には影響がないため、(株)A社に依頼されたとおり、平成25年3月25日の納品日を平成25年4月10日に改竄した納品書を(株)A社に発行した。

(株)A社の税務調査が行われたが前回調査時の調査記録において「次回調査時においては、連携調査が有効と思われる」との記述があった。そのため(株)B社の所轄税務署に依頼し(株)B社の税務調査も(株)A社の税務調査と同時期に実施することになった。

(株)A社の担当調査官は(株)B社に対する平成25年4月10日の納品売上の代金回収日が平成25年4月30日であることに不審に思ったため(株)B社の担当調査官に取引きの解明を要請した。

(株)B社の担当調査官は取引状況の詳細を確認。(株)B社が(株)A社から仕入れた商品を、平成25年3月30日に(株)C社に納品した事実を把握した。それをもとに社長及び経理担当者を厳しく質問調査した結果、(株)A社に依頼されて平成25年3月25日の納品日付を平成25年4月10日に改竄した納品書を発行した事実を把握した。

(株)B社の担当調査官から調査の詳細にについて連絡をうけた(株)A社の担当調査官は、直ちに(株)A社の社長及び経理担当者に(株)B社で入手した情報について基づいて質問調査したところ、(株)B社に対する売上を翌期に計上する手口によって除外し利益調整していた事実を認めた。

(その結果)

追徴税額は重加算税(本税の35%)となり、取引先の(株)B社も徹底的に調査されました。