税務調査官の転勤事情……元税務調査官のエピソード

税務調査官の人事スケジュールと税務調査との関係について。今回はこの辺りの事情を知っていただくべく、私の税務調査官時代のエピソードをご紹介する。

元号が昭和から変わって間もない平成元年の7月初旬、私は兵庫県の西部にある税務署の法人課税部門の調査担当だった。担当になってから1年、未熟ながらも調査のイロハが分かりかけてきた時期でもあり、自分一人で調査が行えるようになっていた。

税務署の事務年度(会社の事業年度のようなもの)は7月1日から翌年6月30日である。そして人事異動はその年度初め、7月10日に行われる。

私は、兵庫県東部にある税務署に配属されることが決まっていたが、担当は分からない。なぜなら7月10日の人事異動とあわせて税務署の部門編成も行われるからだ。

税務署の調査官は3~4年で転勤することが多い。中には単身赴任する者もいる。もちろん人事異動の希望を伝える機会はあるが、すべての調査官が希望どおりにいくわけでもない。通常は、税務大学校での研修後に配置される部門(法人課税部門や個人課税部門など)を中心に勤務することになるが、稀に、例えば法人課税部門一筋で勤務していた者が、徴収部門などに配置替えになることもある。

反応は様々だ。私自身について記憶を辿ってみれば、割と淡々としていたように思う。しかし怒る人もあれば、喜ぶ人もいる。調査官にもサラリーマンと同じく、日々の暮らしがあり、色々な人間模様があるとその時実感した。

転勤までの期間の忙しさは現在でも鮮明に覚えている。統括官(課長級)や上席調査官(係長級)は7月後半から実施する税務調査の「事案選定」で手一杯だ。だから部門内の書類等の整理も当然の如く部門で一番下っ端の私に回ってくる。

ちなみに……税務調査が実施されなかった会社の申告書について

税務調査を実施されなかった法人の申告書については、調査官が署内にて申告書審査を行い、問題がある場合は、後日、税務調査が実施される。
※申告書審査時に申告書の勘定科目内訳書から資料収集を行う。例えば地代家賃、貸付金、借入金、売掛金、買掛金などである。

時間はあっという間に過ぎて、次の職場に向かう日がきた。辞令書を持って法人課税部門全員及び他部門のお世話になった人たちへ丁寧に挨拶して回る。

「初めて配属された税務署、そして初めての転勤は、二署目以降の税務署や二回目以降の転勤と比べて特別である」そう先輩たちからと訊かされていたが、まさにそのとおりであった。玄関で多くの同僚から見送られ、出発したときは目から涙が溢れた。

新しい配属先は兵庫県東部にある税務署の法人課税部門である。そこで調査担当であることが分かったので、安堵した。前の税務署で同勤した先輩調査官もいた。税務署の勤務評定の基準日は4月1日であり、年末までの実績の占める割合が大きい。だから、年末までは調査日がかかっても大きな成果(増差税額等)の見込める事案が続くことになる。

「調査能力向上と年末までに実績を出すぞ!」そうして経験2年目の税務調査は7月20日前後から始まったのだった……

 

税務署の調査部門の職制について

税務署の調査部門には民間会社のように課長、係長などの名称の役職はなく、独特な名称の役職がある。なお、税務署で課長、係長などの役職がある部署は、税務調査を担当しない総務課のみである。

職制について

◇統括国税調査官
税務署の課長級、調査先の選定や調査担当者の復命管理を行う
税務調査折衝の窓口責任者
年齢幅は40代前半~60歳前後

◇上席国税調査官
税務署の係長級、調査担当者で若手職員の指導にも当たる。
困難調査事案を担当したりもする。
年齢幅は35歳前後~60歳前後

◇国税調査官
税務署の主任級、調査担当者
年齢幅は20代後半~30代後半

◇事務官
税務署の一般職員、調査担当者
年齢幅は20歳前後~30歳前後

◇特別国税調査官
税務署の副署長、課長級
税務署所管(資本金1億円未満が大部分)の中で規模の大きい会社の調査を担当
年齢幅は40代後半~60歳前後

 

参考…元税務調査官が語る!!法人税務調査官の年間スケジュール