元税務調査官が語る!「こうして調査先は選ばれる(調査事例)」

税務署がいくら巨大な組織といえども、そのリソースには限界がある。そのため、調査先の選定には自ずから優先順位がある。彼らはいったいどのようにして調査先を選定しているのか。実際の調査事例を交えて紹介する。経理業務の見直しにぜひ役立ててほしい。

目次

  1. 調査事例
    ・あるはずの雑収入(スクラップ売却)がない!?
    ・仮受金の謎
  2. こうして調査先に選ばれる!

 

1. 調査事例

あるはずの雑収入(スクラップ売却)がない!?

金属加工業を営むA社は、過去10年以上に亘ってスクラップ売却の雑収入を計上し、法人税申告書の添付書類の「勘定科目内訳明細書」にも記載していた。
だが、社長のBは金額も少ないことからあまり罪悪も感じずに、今期(3月31日決算)においては雑収入に計上せずに自分の小遣いとして費消していた。

その後
税務調査先を選定していたH税務署のS統括官の目に、B社の今期(3月31日決算)の申告書が留まっていた。

  • 毎期あるはずのスクラップ収入が、業態の変化がないにもかかわらず今期(3月31日決算)の申告には計上されていない。
  • スクラップ回収業者のCがB社から今期(3月31日決算)中に購入した資料情報がある。

以上のことから、S統括官はA社に対する税務調査を実施することを決定した。

後日……
A社の税務調査が実施され、、スクラップ売却収入に関する資料情報を携えた担当調査官の追及は厳しくスクラップ回収業者Cに対する反面調査も実施され、スクラップ収入を計上していなかったことがバレてしまった。

(その結果)
当然のことだが、追徴税額は重加算税(本税の35%)対象となり、スクラップ回収業者Cにも迷惑を掛けてしまった。

 

仮受金の謎

コンサルタント業を営むA社は今期(5月31日決算)の業績が好調で、例年以上の所得計上が見込まれた。そこで納税額を少しでも減らすために利益調整を行った。
利益調整の手口は以下の通り。今期末までに入金されるB社からのコンサルタント料2月~4月分の8百万円は本来売上計上すべきだが、これを仮受金に計上。そして翌期(6月1日以降)に仮受金から売上に振替処理することによって、売上から除外した。さらに5月分で売掛金分として計上すべき2百万円を計上せずにいた。

その後……
税務調査先を選定していたF税務署のN統括官の目に、B社の今期(5月31日決算)申告書が留まっていた。

  • 過去の申告において仮受金の計上がないにもかかわらず今期(5月31日決算)は8百万円の計上がある。
  • 申告書に添付されている「勘定科目内訳明細書」の売掛金の明細に、今期(5月31日決算)に限ってB社の売掛金の記載がなかった。

以上のことから、F統括官はA社に対する税務調査を実施することを決定した。

後日……
A社の税務調査が実施され、A社の社長は税務署の担当調査官からB社の仮受金について質問されたが、関係証憑類は誤って紛失したと嘘の答弁をするとともに、曖昧な回答で逃げ切ろうとした。そこで担当調査官は、事実確認するためには(株)B社への反面調査が必要だと判断し、帰署後、統括官(課長級)に復命して了解を得た。

担当調査官が(株)B社に反面調査を実施したところ、A社の発行した2月~4月分のコンサルタント料の請求書及び領収証を把握するとともに、売上を仮受金に仮装して利益調整している事実を把握した。
また、5月分で今期(5月31日決算)に計上すべき売上を計上していなかった事実も把握した。

担当調査官はB社で把握した事実をもとに、A社の社長を厳しく追及した結果、B社からの2月~4月分の売上8百万円を仮受金に計上することによって、利益調整したこと、また5月分の売上2百万円を故意に除外した事実を認めた。

(その結果)
当然のことだが追徴税額は重加算税(本税の35%)対象となり、B社にも迷惑をかけてしまった。

 

2. こうして調査先に選ばれる!

前回調査からの経過年数
前回調査または設立日から3期(年)以上経過している会社が対象となる可能性が高い。しかし申告においての異常計数が多い会社や、資料情報があるため早く調査を実施しればならない会社においては、2期(年)あるいは1期(年)が経過した時点でも税務調査実施の候補に選ばれるケースがある。

申告においての異常計数が目立つ会社
例えば、前期に比べて売上が増加しているにもかかわらず、営業利益や申告所得が減少している会社や、例年に比べて多額の経費計上がある企業などの異常係数が目立つ会社は、税務調査実施の候補に選ばれる。

資料情報がある会社
税務署は国税庁という全国展開している大組織の中の1支店なので、企業に対する資料情報は蓄積されている。その中で脱税行為(重加算税対象)の問題点ありの可能性が高い企業については、税務調査実施の候補に選ばれる。

前回調査で脱税行為(重加算税対象)を行っていた会社
前回調査で脱税行為(重加算税対象)を行っていた会社は、また同じ誤ちを繰り返す可能性があるとともに、是正状況についても確認する必要がある。このため税務調査実施の候補に選ばれることが多い。

長期未接触法人
申告においての異常計数もなく、問題のある資料情報もない企業については、通常は税務調査実施の候補からは外される。しかし前回調査から5期(年)以上経過しており、ある程度の売上金額や申告所得がある企業は、定期検診という意味合いで税務調査実施の候補に選ばれるケースがある。