元税務調査官が語る「攻める手法:現場確認調査編」

税務調査官が調べるのは帳簿などの書類だけではない。実際の状況を調べる現場確認調査によって、不正を発見しようとすることもしばしばある。今回はこの現場確認調査について実際の事例を見ていきたい。

目次

  • 調査事例……工場現場確認
  • 調査事例……倉庫現場確認
  • 現場確認調査のポイント

1、調査事例……工場現場確認

金属加工業を営む(株)A社は今期(3月31日決算)の業績が好調で、例年以上の所得計上が見込まれた。そこで社長であるBさんは納税額を少しでも減らす目的で利益調整を行った。

その手口は、2百万円で購入した機械を資産計上せずに他の4台の機械の修繕費に仮装して損金経理するというものであった。これは機械の購入先の(株)C社の営業担当者に依頼し、請求書を4台の機械の修理代金に書き換えてもらうという方法で実現した。

また(株)A社には毎年発生している税務上の問題点があった。作業中に発生するダライ粉を定期的に訪れる回収業者に販売していたが、その代金を現金で受け取り、会社の収入として計上せずに得意先の窓口担当者に裏リベートとして渡していた。

その後……

後日(株)A社の税務調査が行われた。税務署の担当調査官は年齢が40代の上席調査官であったが、帳簿調査では問題点が何も見つからなかったので、工場の現場確認調査を実施したところ、次の疑問点が認められた。

  • 資産計上されていない機械が1台あった。
  • ダライ粉を貯めて保存しているにもかかわらず、ダライ粉売却収入が計上されていない。またダライ粉を貯める箱にはダライ粉回収業者名とその電話番号を記載したシールが貼っていた。

担当調査官は、社長のBさんに資産計上されていない機械について細かく質問したが、「数年前に中古機械として購入したが購入価格が10万円未満だったため備品消耗品費として経費計上していた」との回答があった。しかし、機械に貼られていたシールに記載されている製造年月日から判断してもBさんの回答に疑問があったため、購入先である(株)C社に対する反面調査が必要と判断した。

ダライ粉の売却収入については現場及びダライ粉回収業者名、電話番号を押さえられたことによって観念したのか、Bさんはダライ粉収入を計上していなかった事実を認めて、裏リベートとして費消していたとの回答を行った。この収入額については記録書類等がないため、ダライ粉回収業者に反面調査を実施して売却収入額を把握することにした。

帰署後、統括官(課長級)に復命して(株)C社及びダライ粉回収業者に対する反面調査の了解を得て実施したところ、(株)C社から2百万円の機械を購入している事実と、営業担当者に依頼し、請求書の内容を4台の機械の修繕費に仮装していた事実を把握した。

担当調査官は(株)C社で把握した事実をもとに、社長のBさんを厳しく追及した結果、資産計上すべき機械を他の4台の機械の修繕費として損金計上することによって、利益を圧縮していた事実を認めた。また、スクラップ回収業者に反面調査を実施して、ダライ粉の売却収入金額を把握した。

その結果……

当然のことだが追徴税額は重加算税(本税の35%)対象となり、(株)C社及びスクラップ回収業者にも迷惑をかけてしまった。

2、調査事例……倉庫現場確認

雑貨卸売業を営む(株)A社は、取引の一部を会社の収益に計上せずに簿外の会社名義の預金口座で取引を行う方法で売上除外を行っていた。
※仕入商品の支払いも簿外の会社預金口座で決済しているため、帳簿調査だけでは発覚しにくい手口である。

その後……

後日(株)A社の税務調査が行われた。税務署の担当調査官は期末棚卸除外等の利益調整の有無を今回の調査ポイントとしていたため、調査日現在での棚卸商品管理状況の確認を実施した。
保管倉庫内にある棚卸商品と日常管理に使用している商品入出庫データと照合したところ、データで管理されていない商品があったため、社長のBさんに質問したところ「データ入力のミスではないか?」などの、曖昧な回答しかなく、また、仕入帳から検討したところ、仕入計上の事実がなく簿外取引の可能性があるため、簿外商品の仕入先である(株)C社に対する反面調査が必要と判断した。

帰署後、統括官(課長級)に復命して(株)C社に対する反面調査の了解を得て実施したところ、簿外仕入の詳細等を把握するとともに、仕入代金が銀行振り込みで簿外の会社名義の預金口座から振り込まれている事実を把握した。

簿外の預金口座のある銀行に反面調査を実施したところ、簿外取引による売上除外が判明し、売上先にも反面調査を実施して売上除外の全容を把握した。

担当調査官は(株)C社で把握した事実をもとに、社長のBさんを厳しく追及した結果、簿外の預金口座を使用して売上除外を行っていた事実を認めた。

その結果……

当然のことだが追徴税額は重加算税(本税の35%)対象となり(株)C社及び売上先にも迷惑をかけてしまった。

3 現場確認調査のポイント

  • 事業概況の把握
  • 取扱商品(商品、製品の保管場所、責任者)
  • 製造工程(機械、原材料、作成書類、事務部門との連絡方法等)
  • 副産物の有無
  • 従業員の状況(責任者、従業員数、従事内容)

税務調査官は帳簿だけでなく上記のように現場を確認して調査を行うこともある。帳簿と現場の食い違いがないよう、日頃からのチェックを大切にしておきたい。