元税務調査官の調査ポイント&調査事例(資産・負債勘定編)

今回は資産・負債勘定の税務調査における重点調査ポイント及び調査事例を紹介しよう。

  1. 資産勘定のチェックポイント
  2. 資産勘定の調査事例
  3. 負債勘定のチェックポイント
  4. 負債勘定の調査事例

 

1. 資産勘定のチェックポイント

現預金の検討

現金監査
現金管理は、経理の基本業務で重要調査項目である。そこで以下の点を中心に調査当日の現金残高と現金出納帳残高の照合を行う。

  • 現金残高と現金出納帳残高の照合で不一致はないか。
  • 不一致が生じた時は、原因についての解明を行う。
  • 現金の保管場所の確認。

預金の把握
預金については、あらゆる機会をとらえて簿外預金及び代表者等の個人預金を把握する。

  • 預金通帳の保管場所の確認。
  • 名刺フォルダー及び連絡先一覧表、カレンダーなどから簿外取引の銀行がないかを確認する。
  • 機会があれば代表者の自宅に臨場して、個人預金の把握に務める。
  • 個人預金の中に、簿外取引がないかを確認する。

売掛金の検討

  • 売上帳(得意先台帳)から売掛金を集計、検算するとともに、決算額と照合する。
  • 多額の返品、値引き等はないか。

仮払金の検討

仮払金は費用科目に振り替えが容易で、利益調整に利用されるケースが多く、要注意の科目である。

  • 経費等に振替処理している場合には、領収証等の証票類から計上の適否を検討する。
  • 長期の仮払金については、内容及び利息の必要性について検討する。
  • 役員及びその同族関係者に対する仮払金の使途を確認する。

 

2. 資産勘定の調査事例

現預金の調査事例

衣料品関係の卸売業を営むA社の社長B氏は、仕入先C社からの仕入リベートをB氏の個人預金通帳へ振込させて、個人的に消費していた。

その後……
C社に税務調査が入り、A社へのリベートがA社の社長B氏の個人預金通帳に入金されていることを把握するとともに、A社の所轄している税務署に資料情報提供を行った。所轄税務署はこれを元にA社を税務調査対象先に選定しA社に対する税務調査を実施した。
リベート収入除外が想定されるとあってか調査官の追及も厳しく、B氏の個人預金口座のある銀行だけではなく、C社にも反面調査が実施され、リベート収入除外がバレてしまった。

(その結果)
当然のことだが、追徴税額部分は重加算税(本税の35%)対象となり取引先のC社にも迷惑をかけてしまった。

仮払金の調査事例

D社の社長E氏は、プライベートで多額の金額が必要となったが、個人預金等では賄いきれなかったため、D社の現金を仮払金で出金してこれに充てた。
しかし決算期末までに精算できなかったため、仮払金を精算する目的で架空に経費を計上して、仮払金を精算する経理処理を行った。

その後……
D社の税務調査が行われ、仮払金の精算状況を確認していた税務署の調査官は、決算期末に証憑類のない経費計上に着目してE氏を質問攻めにした。観念したE氏は仮払金を精算する目的で、架空に雑費を計上していた事実を認めた。

(その結果)
当然のことだが、追徴税額は重加算税対象(本税の35%)として課税された。

 

3. 負債勘定のポイント

買掛金・未払金の検討

  • 連年推移からみて異常に増加していたり、事業規模・形態等からみて多額なものなど、不審なものはないか。
  • 決算期末に、多額計上あるいはラウンド数字で不審なものはないか。
  • 長期未決済になっているものはないか。

仮受金・前受金の検討

  • 収益計上すべきものの有無について関係証票類等から検討する。

借入金の検討

  • 役員及びその同族関係者からの借入金については、その資金出所を把握し検討する。
  • 簿外資金を役員借入金の科目を利用して本勘定に受け入れ、運転資金として使用していないか。

 

4. 負債勘定の調査事例

役員借入金の調査事例

A社は今期の業績が好調で、例年以上の利益が見込まれた。そこで納税額を少しでも減らす目的で利益調整を行った。
利益調整の手口は、現金売上先のB社からの入金の際に相手勘定(貸方)を社長C氏の借入金にして売上除外する方法であった。

その後……
A社の税務調査が行われ、税務署の調査官は、資金出所が不明な社長借入金を発見した。関係書類等を確認すると、売上勘定において計上されていないB社に対する売上があり、これが社長借入金入金額と同額であったため、A社の社長C氏を質問調査した。しかし曖昧な回答しか得られなかったため、B社へ反面調査することとした。

後日、B社への反面調査を実施して売上除外の事実を把握した税務署の調査官は、社長C氏を厳しく追及。現金売上を社長借入金に仮装することによって売上除外して利益調整を行っていた事実を把握した。

(その結果)
当然のことだが追徴税額は重加算税(本税の35%)対象となり、B社にも迷惑をかけてしまった。