元税務調査官が語る「勘定科目別・税務調査事例」(総集編)

税務調査と言ってもその内容・対象は実に様々。よく見られるポイントもあれば、非常に珍しいケースもある。今回は、私が実際に経験した税務調査事例から、勘定科目別ごとに紹介していきたい。

目次

  1. 損益科目別調査事例
    ①売上計上に関する事例
    ②外注費に関する事例
    ③一般経費に関する事例
    ④雑収入に関する事例
  2. 資産・負債科目別調査事例
    ①現金に関する事例
    ②銀行預金に関する事例
    ③売掛金(決算期末売上)に関する事例
    ④仮払金に関する事例
    ⑤仮受金(決算期末売上)に関する事例

 

1. 損益科目

①売上計上に関する事例

衣料品関係の卸売業を営む株式会社Aの社長Bさんには、ある秘密があった。遠方のC社との取引を会社の経理を通さずに、Bさんの個人預金口座上で行っていたのである。

仕入先から商品を仕入れてC社に直送する取引だが、仕入商品の支払いとC社からの売上代金の受け取りをBさんの個人預金口座で行い、利益部分は私的なお小遣いとして消費していた。仕入れも会社の経理を通さない簿外取引なので、税務署にはバレないだろうとBさんはタカをくくっていた。

時が過ぎBさんの知らないところで大きな動きがあった。
C社に税務調査が入ったのだ!

その時の調査官は、株式会社Aに対する支払いがなぜか社長Bさん名義の預金口座に振込まれている事実に気付いた。彼は疑問に思い資料を株式会社Aを所轄している税務署に送付した。資料情報を受け取った所轄税務署は株式会社Aを税務調査対象先に選定した。

やがて税務調査が実施された。簿外取引による売上除外が想定されるとあってか調査官の追及も厳しく、Bさん名義の預金口座のある銀行だけではなく、C社にも反面調査が実施されて、簿外取引のすべてがバレてしまいました。

当然のことだが、追徴税額部分は重加算税(本税の35%)対象となり取引先のC社にも迷惑をかけてしまった。

②外注費に関する事例

住宅建築業の(株)A社は、地元を中心に一般住宅の建築を営んでおり業績は好調であった。仕事一筋の社長のBさんも、最近は少しゆとりができた。古くなった自宅の壁の修繕塗装を行うことにしたが、今まで真面目に生きてきたBさんの脳裏にふと悪知恵が浮かんだ。

今期はかなり会社の利益が発生しそうなので、自宅の壁の修繕塗装を会社の経費で落とすことによって法人税等の納税額を減額しよう……
Bさんの手口は、自宅の壁の修繕塗装費を新築工事として受注したC邸の塗装費用に仮装して、外注費に計上することだった。
自宅の修繕塗装を行った(株)D社から交付があった「見積書」及び「請求書」には自宅の工事を行っていることが明確に記載されているため、会社経費としての証拠書類にはできない。「領収証」の但し書き蘭が空欄であることに着目して「C邸塗装工事」と記入、書類の改ざんを行った。

その後……
(株)A社の税務調査が行われたが、事前に担当調査官はBさんの自宅の外観を確認しており「自宅の壁の修繕塗装費を会社の経費に付け込んでいないか?」を調査ポイントにしていた。
調査官は「C邸新築工事」の工事原価が高いことと、塗装費が2度にわたって計上されているが1つの塗装費計上は証拠種類が領収証しかなく、その但し書きの筆跡にも疑問が生じたことから、塗装工事を行った外注先の(株)D社に反面調査行うことにした。

そこで(株)D社に対して反面調査を行った結果、Bさんが自宅の修繕塗装費を(株)A社の外注費に計上していた事実が明らかになった。

③一般経費に関する事例

税務調査事例(やってはいけない経理処理)
経理担当者であるBさんが帳簿や証憑類の見直しをしていたところ、H24年10月分の経費を誤ってH24年9月30期の経費として計上(未払費用)していたことに気付いた。
税務署に調査官に指摘されるのを恐れたBさんは、経費の請求書に記載されていたH24年10月分の文字をバレないように工夫してH24年9月分に書き直した。

税務調査当日……
税務調査のプロである調査官の目はごまかせず、その経費の請求書を見て不審に思った調査官からBさんは質問攻めにされた。挙句の果てに経費の支払先であるC社にまで反面調査されてしまい、請求書を改ざん(書き直し)していた事実がバレてしまった。

(その結果)

仮装隠蔽行為として重加算税(本税の35%)対象として追徴課税され、反面調査によってC社にも迷惑をかけてしまった。

④雑収入に関する事例

建設業を営む(株)A社は設立10年目の会社で、社長のBさんの営業力のおかげで業績は順調であった。
(株)A社には、本社事務所の近隣に過去に資材置場としていた会社名義の更地があった。2年ほど前から更地の一部を、Bさんの個人的な知人のCさんに自動車の駐車スペースとして使用させていた。
なお、Cさんは毎月の駐車代をBさんの要望で法人名義の預金口座に振り込むのではなく、Bさんの個人預金口座に振込むようにしていた。
Bさんは真面目な性格だが、金額も毎月2万円程度で少額だったため、つい出来心をおこしてしまったのであった。

その後…
後日,(株)A社の税務調査が行われた。担当調査官は更地に自動車が駐車されている事実を調査前に把握していたが、質問調査されたBさんは「無料で駐車させている」と回答した。不審に思った担当調査官は、税務署に戻ってから統括官(課長級)に復命して指示を仰いだところ、「銀行調査を実施して(株)A社の主要関係者の個人預金口座を把握せよ」と指示を受けた。
数日後、銀行調査を実施して駐車代金が振り込まれている個人預金口座を把握した担当調査官はBさんを厳しく追及。Cさんに対しても反面調査が行われ、駐車代収入を計上せずに、お小遣いとして消費していた事実を認めた。

(その結果)

追徴税額は当然、重加算税(本税の35%)の対象となり、Cさんにも迷惑をかけてしまった。

 

2. 資産・負債科目

①現金に関する事例

修理業を営む(株)A社の社長のBさんは、近所の(株)C社の機械の修理を引き受け、後日、修理代金を現金で受け取った。金額も10万円で少額であったため、売上に計上せずに、小遣いとして自分の財布の中に入れてしまった。
Bさんは真面目で几帳面な性格であったため、今回のように売上を計上しなかったことは、過去に一度もなかった。

後日、(株)A社の税務調査が行われ、税務署の担当調査官は領収証(控)から売上計上の確認をしたところ、売上に計上されていない(株)C社の10万円の領収証(控)を見つけた。
担当調査官は、社長のBさんに厳しく質問調査を行い、観念したBさんは正直に(株)C社の売上を計上せずに自分の小遣いとして消費したことを認めた。
売上を計上しなかったのは、今回の10万円のみであると弁明したが、担当調査官は他にも計上していない売上があるのではないかとの疑いは晴れなかった。

その後、(株)C社への反面調査はもちろんのこと他の得意先への反面調査も実施された。また、Bさんや他の役員、主要な従業員の個人預金口座への銀行調査も徹底的に行われた。

(その結果)

税務署の担当調査官が、長期間にわたって調査した結果、売上に計上していなかったのは(株)C社に対する売上の10万円だけということが確認され、追徴税額が重加算税対象(本税額の35%)の処理で終了したが、反面調査された(株)C社をはじめ、多くの得意先に迷惑をかけてしまった。
Bさん自身、調査中は、仕事に力が入らなかった。なにより信用第一の会社にとっては、多くの得意先に迷惑をかけたことは、10万円の代償としてはあまりにもに大きかった。

(税務調査官からのアドバイス)

  • たとえ少額でも売上や雑収入などの収入については、確実に収入計上する。
  • 税務調査官は少額で一度きりの売上除外でも、他にあるのではないかと必ず疑う。

②銀行預金に関する事例

サービス業を営む個人事業者のAさんは、事業規模拡大に伴って(株)B社を設立した。個人事業者時代からの得意先には、売上代金の振込口座を個人預金口座から会社名義の預金口座に振込先変更を依頼したが、年間3回程度しか取引がない(株)C社だけは、以前と同様に個人預金口座への振込入金を行っていた。

Aさんは営業等の業務の傍らに経理事務も行っており、多忙であった。そのため年間3回しかない(株)C社(個人預金入金)との取引について、会社名義の預金口座への振替処理および売上計上処理を失念していた。そして後日、個人預金口座から出金して個人的に消費してしまった。

その後…
数年後に(株)B社の税務調査が行われ、税務署の担当調査官はAさんの個人預金口座資料を携行しており、(株)C社との取引について厳しく質問調査するとともに、(株)C社の反面調査も行われた。結果、(株)C社(個人預金入金分)の売上を計上しなかったことがバレてしまった。

(その結果)

当然のことだが、追徴税額は重加算税(本税の35%)対象となり、(株)C社にも迷惑をかけてしまった。

③売掛金(決算期末売上)に関する事例

製造業を営む(株)A社は今期(3月31日決算)の業績が好調で、例年以上の利益が見込まれた。
社長のBさんは仕事熱心で真面目な性格であった。しかし納税額を少しでも減らして事業資金に残したいという気持ちが先走ってしまい、 悪いことと思いながらもふと悪知恵を使ってしまった。
Bさんの手口は、今期の売上げに計上すべき3月30日納品の(株)C社に対する売上金額の数百万円を翌期(4月1日以降)に計上するというものだった。そして本来の納品書控(納品日付3月30日)を破棄して納品日付を4月15日とした納品書控を偽装作成するとともに請求書控も偽装作成を行った。

その後……
後日、(株)A社の税務調査が行われた。税務署の担当調査官は、売上の期末計上について納品書控からチェックしたところ、次の点に疑問を感じた。

  • (株)C社に対する4月15日納品の売上代金入金が4月30日であること。
  • 納品書控の納品番号は連番であるが、3月29日~3月30日までの納品書控に欠番(破棄)があるのが確認された。

担当調査官は、社長のBさんに対して(株)C社の4月15日納品売上について 細かく質問するとともに、(株)C社に対する反面調査が必要であると判断し、帰署後、統括官(課長級)に復命して了解を得た。
担当調査官が(株)C社に反面調査したとろ、(株)A社が発行したのは納品日付が3月30日の納品書であることが分かった。同時に偽装前の請求書も把握した。
担当調査官は(株)C社で把握した事実をもとに、Bさんを厳しく追及したところ、観念したBさんは(株)C社の3月30日納品の売上を翌期の売上げに仮装した事実を認めた。

(その結果)

当然のことですが追徴税額は重加算税(本税の35%)対象となり、(株)C社にも迷惑をかけてしまった。

④仮払金に関する事例

大手コンサルタント会社に勤務していたDさんは、脱サラしてコンサルタント会社の(株)E社を設立した。Dさんはサラリーマン時代の人脈を活かして営業活動を行っており、会社の業績も好調だった。
社員はおらず、Dさんのみで営業や経理を含めた業務全般を行っていた。
Dさんは営業上必要な時に、会社名義の預金口座から仮払金として現金を出金して取引先の接待を行っていた。しかし忙しさのあまり、日々の仮払金を精算しなかった上、接待で支出した際の領収証等の保存も悪く、紛失した領収証も多数あった。このため決算期末に仮払金の精算を行った結果、数十万円の仮払金が残ってしまった。
Dさんは残ってしまった数十万円の仮払金を精算するために何の根拠もなく架空に雑費を計上して、仮払金を精算する経理処理を行ってしまった。

その後……
数年後(株)E社の税務調査が行われ、仮払金の精算状況を確認していた税務署の担当調査官は、決算期末に証憑類のない雑費計上に着目してDさんを質問攻めにした。結果、観念したDさんは仮払金を精算する目的で、架空に雑費を計上していた事実を認めた。

(その結果)

当然のことだが、追徴税額は重加算税対象(本税の35%)として課税された。

⑤仮受金(決算期末売上)に関する事例

コンサルタント業を営む(株)A社は今期(5月31日決算)の業績が好調で、例年以上の利益が見込まれたので、納税額を少しでも減らす目的で利益調整を行った。
利益調整の手口は、5月20日に入金済みの(株)B社からのコンサルタント料2百万円を、売上計上すべきにもかかわらず仮受金に計上し、翌期(6月1日以降)に仮受金から売上に振替処理することによって、売上を除外する方法であった。

その後……
後日、(株)A社の税務調査が行われ、税務署の担当調査官から(株)B社の仮受金について質問された。担当者は、関係証憑類は誤って紛失したとの曖昧な回答で逃げ切ろうとしたが、担当調査官は事実確認するために(株)B社への反面調査か必要だと判断し、帰署後、統括官(課長級)に復命して了解を得た。
担当調査官が(株)B社に反面調査を実施したところ、(株)A社の発行したコンサルタント料2百万円の請求書及び領収証を把握するとともに、売上を仮受金に仮装して利益調整している事実を把握した。
担当調査官は(株)B社で把握した事実をもとに(株)A社の社長及び経理担当を厳しく追及。その結果(株)B社からの売上2百万円を仮受金に計上することによって、利益調整した事実を認めた。

(その結果)

当然のことだが追徴税額は重加算税(本税の35%)対象となり、(株)B社にも迷惑をかけてしまった。