元税務調査官が語る「調査官の攻める視点:仕入・外注費・棚卸編」

今回も攻める側、税務調査官がどのようにして帳簿や証票類等から仕入・外注費・棚卸を調査するかをまとめていく。後半には、外注費計上に関する調査事例について紹介しよう。

売上計上については前回の記事を参照いただきたい。

  • 税務調査官の視点(仕入編)
    1. 取引状況からの聴取
    2. 証票類からの検討
    3. 仕入帳の検討
  • 税務調査官の視点(外注費編)
  • 税務調査官の視点(棚卸編)
    1. 棚卸の把握
    2. 関係書類からの検討
  • 税務調査事例(外注費編)

税務調査官の視点(仕入編)

主要な原価科目で、架空計上及び翌期分の仕入の繰上計上などの問題点が発生しやすい科目である。

1. 取引状況からの聴取

通常に比べて高額なものなどイレギュラーな仕入については、その理由及び仕入の事実を仕入担当者から確認するともに、納品書等の納品記録からの数量チェックを行い検討する。

2. 証票類からの検討

納品書、請求書、領収証などの証票類により検討する。不審が認められ、仕入先への確認が必要な場合は反面調査が行われるケースがある。

税務調査官の着目点

  1. 住所、電話の記載がない
  2. 筆跡、三文判
  3. 金額がラウンド数字

3. 仕入帳の検討

請求書及び領収証等の証票類と仕入帳を照合するとともに、決済状況や物(商品、製品)の動きからも検討する。

税務調査官の着目点

  1. 期末に多額の仕入計上
  2. 買掛金残高が取引金額に比べ異常
  3. 遠隔地で単発取引

税務調査官の視点(外注費編)

仕入と同様に主要な原価科目であり、架空計上や翌期分の外注費の繰上計上などの問題点が発生しやすい科目である。

1. 外注費と対応する売上を照合し検討する。

税務調査官の着目点

  1. 対応する売上の有無
  2. 利益(率)は異常ではないか

2. 請求書や領収証等の証票類から検討する。

税務調査官の着目点

  1. 異なる外注先で筆跡、印影等が類似するものはないか
  2. 外注先の実在を確認できるか
  3. 特定月に異常、多額の決済をしているものはないか
  4. 決済が変則的なものや著しく遅延しているものはないか

税務調査官の視点(棚卸編)

棚卸については。計上額の除外などの利益調整(圧縮)が容易であり、単純な計算誤り等の計上漏れなどの問題点も発生しやすい科目である。
※預け在庫及び積送品が計上漏れとなっているケースが多い。

1. 棚卸実施状況の聴取

棚卸実施状況については、1~7の事項を中心に聴き取りする。

  1. 実地棚卸の実施日時
  2. 実地棚卸方法(具体的に)
  3. 実地棚卸の担当者(全員か、特定者か、その日の出勤状況は?)
  4. 決算期末以外の実地棚卸の実施の有無
  5. 棚卸表(一定様式か、メモ書きか、担当者の署名は)
  6. 棚卸高の集計方法(誰が、何に基づいて集計するのか)
  7. 棚卸の原始記録の保存状況(誰が、どこに)

2. 関係書類からの検討

棚卸を実施した際のメモなどの原始記録を把握して、申告書の棚卸明細書と照合し検討する。
※調査日現在の在庫を基に、期首にさかのぼって受払を計算して検討するケースもある。

税務調査官の着目点

  1. 期末直近の仕入及び翌期首の売上との対比、検討
  2. 預け在庫及び積送品の有無
  3. 製造(加工)工程からの検討

税務調査事例(外注編)

住宅建築業の(株)A社は、地元を中心に一般住宅の建築を営んでおり業績好調だ。仕事一筋のB社長も、最近は少しゆとりが出来て、古くなった自宅の壁の修繕塗装を行うこととしたが、今まで真面目に生きてきたB社長の脳裏にふと悪知恵が浮かんだ。

今期は、かなり会社の利益が発生するので、自宅の壁の修繕塗装を会社の経費で落とすことによって法人税等の納税額を減額できないか……

社長の手口は、自宅の壁の修繕塗装費を新築工事として受注したC邸の塗装費用に仮装して、外注費に計上することだ。

自宅の修繕塗装を行った(株)D社から交付があった「見積書」及び「請求書」には、自宅の工事を行っていることが明確に記載されているため、会社経費としての証拠書類にはせず、「領収証」の但し書き蘭が空欄であることに着目して、B社長は、但し書き蘭に「C邸塗装工事」と記入(改竄)した。

その後・・・後日、(株)A社の税務調査が行われ、事前に担当調査官はB社長の自宅の外観を確認し「自宅の壁の修繕塗装費を会社の経費に付け込んでいないか?」を調査ポイントにしていた。

調査官は「C邸新築工事」の工事原価が高いことと、塗装費が2度にわたって計上されてきることに着目。うち1つの塗装費計上は証拠種類が領収証しかなく、その但し書きの筆跡にも疑問を感じたため、塗装工事を行った外注先の(株)D社に反面調査行うこととした。

調査官が(株)D社に対して反面調査を行った結果、B社長が自宅の修繕塗装費を(株)A社の外注費に計上していた事実が明らかになった。

(その結果)

当然のことながら、追徴税額は重加算税(本税の35%)対象となり、(株)C社にも迷惑をかけてしまった。