元税務調査官が語る「節税における無計画の怖さ(税務調査事例)」

今回は節税や納税資金確保に関する計画が不十分だったため、脱税行為につながってしまった事例を紹介しよう。後半は、知っていなければ痛い目に合う印紙税の領収書の取扱いについて説明する。

  1. 節税と納税資金確保は計画的に!
  2. 税務調査事例
    2-1.短期前払費用の架空計上
    2-2.機械等除却損の架空計上
  3. 印紙税の領収書の取り扱いについて
    3-1.印紙税の領収書とは
    3-2.請求書や納品書が領収書に該当するケース
    3-3.売上代金に係る金銭又は有価証券の受取書とは
    3-4.非課税文書

 

1.節税と納税資金確保は計画的に!

節税で重要なことは決算期中に決算予測を行って、所得金額及び納税額等の見込み金額を把握しておくことである。法人の場合は、決算期終了後2カ月以内に申告及び納税となるが、決算期終了後に行うことが可能な節税対策は限られている。
※主な節税対策として短期前払費用計上があるが、決算期中に支払うことが要件のため、決算期終了後に短期前払費用を計上することはできない。

また利益の中には、納税資金が含まれているのを念頭において事業展開を行うことが重要だ。例えば利益が100万円の場合、所得としての納税額が概ね40万円(約40%)のため、設備投資や運転資金として使用できる金額は概ね60万円であり、もし100万円を設備投資等に全額使用してしまえば、申告の際の際に納税することができなくなる。

 

2.税務調査事例

2-1.短期前払費用の架空計上

コンサルタント業を営んでいる(株)A社は堅実な事業を展開した結果、業績は好調であった。
今期(平成25年3月末決算期)はかなりの利益が発生しそうなので、B社長は節税して少しでも法人税等納税額を減らそうとした。しかしそのことが判明したのが決算期末直前だったため、合法的な節税対策を打つことができなかった。そこで普段は真面目なB社長にふと悪智恵が浮かんだ。

B社長の手口は事務所家賃の短期前払費用(1年間)を架空に計上することによって利益を圧縮することだった。期末に代表者借入金によって資金を捻出して、現金で貸主に支払ったことに見せかけるような経理処理を行うとともに、法人税申告書の勘定科目内訳明細書にも短期前払費用の虚偽記載を行った。

その後……

後日、(株)A社に税務調査が行われた。担当調査官が会社名義の預金通帳(現物確認)を行ったとところ、平成25年3月末に1年間分の事務所家賃を前払しているにもかかわらず、平成25年4月に事務所家賃が引落されていた。不審に感じた担当調査官はB社長に質問調査を行ったが、曖昧な回答しか得られなかったので、事務所の貸主の(株)C社に対する反面調査が必要であると判断し、帰署後、統括官(課長級)に復命して了解を得た。
担当調査官が(株)C社に反面調査したところ、事務所家賃の1年間分前払いの事実がなかったことが判明した。担当調査官は(株)C社で把握した事実をもとに、B社長を追及したところ、事務所家賃の短期前払費用を架空計上していた事実を認めた。

(その結果)
当然のことながら、追徴税額は重加算税(本税の35%)対象となり、(株)C社にも迷惑をかけることとなった。

 

2-3.機械等除却損の架空計上

製造業を営んでいる(株)D社は優れた技術によって、業績は好調であった。
今期(平成25年4月末決算期)は、かなり利益が発生する見込みだが、設備投資を行ったことにより納税資金が不足することが確実となったため、E社長は少しでも法人税等の納税額を減額しようと、ふと悪知恵を使ってしまった。
E社長の手口は、製造設備の機械を廃棄したように見せかけ、固定資産(機械等)除却損を計上することによって利益を圧縮することだった。

その後……

後日、(株)D社に税務調査が行われ、担当調査官が固定資産明細書と工場内の設備機械等の実地照合を行ったところ、除却損に計上した機械が、現在も製造ラインで稼働している事実を把握した。
担当調査官は、直ちにE社長を追及した結果、固定資産(機械等)除却損を架空計上して、不当に納税額等を圧縮した事実を認めた。

(その結果)
当然のことながら、追徴税額は重加算税(本税の35%)対象となった。

 

3.印紙税の領収書の取扱いについて

3-1.印紙税(第17号文書)の領収書(金銭又は有価証券の受取書)とは

金銭又は有価証券の引渡しを受けた者が単にその受領事実を証明するために作成し、その引渡者に交付する証拠証書のこと。主に「受取書」「領収証」「領収書」「レシート」などである。

3-2.請求書や納品書などが領収書に該当するケース

受取事実を証明するために請求書や納品書などに「代済」「相済」「了」などと記入したものや「お買上票」などと称するもので、その作成の目的が金銭又は有価証券の受取事実を証するものであるときは、ここにいう金銭又は有価証券の受取書に該当する。

3-3.売上代金に係る金銭又は有価証券の受取書とは

第17号の1文書となり、記載金額に応じた印紙税が課税される。
売上代金とは「資産を譲渡し若しくは使用させること(資産に係る権利を設定することを含む。)又は役務を提供することによる対価」のこと
※借入金、保証金、割戻金、配当金、保険金、損害賠償金などは、売上代金には該当しないため第17号の2文書(売上代金以外……受取書」に該当し、記載金額に関係なく税額は200円である。

3-4.非課税文書

記載金額が5万円未満の受取書及び営業に関しない受取書
※平成26年3月31日以前は記載金額が3万円未満が非課税