決算・期末処理は事務作業量が増加するため処理ミスが発生しやすく、仮装隠蔽行為の温床にもなりやすいことから税務調査では必ずチェックされる項目である。この決算期末処理について、今回は実際の調査事例を交えて注意点を解説していきたい。
- 決算期末処理における調査ポイント
- 勘定科目別の注意点
・売上の計上
・仕入、外注、一般管理費の計上
・期末棚卸資産の計上
・減価償却費の計上
・仮払金の計上
・仮受金の計上 - 決算期末のチェックリスト
1. 決算期末処理における調査ポイント
否認(追徴税額)が多い調査ポイント
・棚卸資産除外
棚卸資産除外は、役員や経理責任者などごく限られた者によって行うことができる。このため利益圧縮の手段として利用されることが多く、厳しくチェックされる。
・売上繰延計上(翌期計上)漏れなどの単純ミス
計上ミスによって利益が過小となっていないかどうか、不正のあるなしに関わらずこれらの漏れは細かく確認される。
経理状況による判断材料
期末計上の状況によって、その会社の経理状況を判断する調査官もいる。
2. 勘定科目別の注意点
・売上の計上
請求が翌期分でも既に商品の引渡しや役務の完了されている取引はないか。
例えば3月31日決算期で、4月分請求書の中に3月分の売上はないか。
決算期末の売上計上について、帳端分の計上漏れがないように注意する。
例えば3月31日決算期で、請求書が3月20日締日の場合は、3月21日~3月31日の売上げを確実に計上するように注意する。
税務調査事例(やってはいけない経理処理)
製造業を営む(株)A社は今期(3月31日決算)の業績が好調で、例年以上の所得計上が見込まれた。
社長のBさんは仕事熱心で真面目な性格だったが、納税額を少しでも減らして今後の事業資金に残したいという気持ちが先走ってしまい、 悪いことと知りながらも、ふと悪知恵を使ってしまった。
Bさんの手口は、今期の売上げに計上すべき3月30日納品の(株)C社に 対する売上金額の数百万円を翌期(4月1日以降)に計上するというもの。納品書控(納品日付3月30日)を破棄して納品日付を4月15日とした納品書控を偽装作成するとともに請求書控も偽装作成を行った。
その後……後日(株)A社の税務調査が行われ、税務署の担当調査官は、売上の期末計上について納品書控からチェックしたところ、次の疑問が浮かんだ。
- (株)C社に対する4月15日納品の売上代金入金が4月30日であること。
- 納品書控の納品番号は連番であるが、3月29日~3月30日までの納品書控に欠番(破棄)があるのが確認された。
担当調査官は、社長のBさんに対して(株)C社の4月15日納品売上について細かく質問するとともに(株)C社に対する反面調査が必要であると判断し、帰署後、統括官(課長級)に復命して了解を得た。
担当調査官が(株)C社に反面調査したとろ、(株)B社が発行した納品日付が3月30日の納品書を把握するとともに、偽装前の請求書も把握した。
担当調査官は(株)C社で把握した事実をもとに、Bさんを厳しく追及した。観念したBさんは(株)C社の3月30日納品の売上を翌期の売上げに仮装した事実を認めました。
(その結果)
当然のことだが追徴税額は重加算税(本税の35%)対象となり(株)C社にも迷惑をかけてしまった。
・仕入、外注費、一般管理費の計上
決算期末までに翌期分の経費等を支払っている場合は前払費用に計上しているかどうか。例えば3月31日決算期で、3月までに支払った経費等の中に翌期分はないか。リース料の一定期間分を一括で支払った場合は、翌期分を前払費用に計上しているか、などである。
税務調査事例(やってはいけない経理処理)
H24年9月30期の帳簿や証票類の見直しをしていたところ、H24年10月分の経費を誤ってH24年9月30期の経費として計上(未払費用)していたことに気付いた。
税務調査官に指摘されるのを恐れたBさんは、経費の請求書に記載されていたH24年10月分の文字をバレないように工夫してH24年9月分に書き直した。
税務調査当日……税務調査のプロである調査官の目はごまかせず、その経費の請求書を見て不審に思った調査官からBさんは質問攻めにされ、挙句の果てに経費の支払先であるC社に反面調査までされてしまい、請求書を改ざん(書き直し)していた事実がバレてしまった。
その結果……仮装隠蔽行為として重加算税(本税の35%)対象として追徴課税され、反面調査によってC社にも迷惑をかけてしまった。
・期末棚卸資産の計上
預け在庫及び積送品の有無の確認はされているか。
預け在庫及び積送品については現物が手元になく計上漏れしやすいため、必ず有無の確認をする。
廃棄した棚卸資産については、廃棄についての詳細を記録しておく。
廃棄した棚卸資産については、税務調査で必ずチェックされるので詳細については記録しておく。
・減価償却費の計上
新たに購入した機械等は、決算期末までに事業の用に供しているか。
決算期末までに機械等を購入していても事業に供していなければ減価償却ができないので、注意が必要である。
・仮払金の計上
決算期末時点で仮払金に計上すべきか。
決算期末時点において、支払いの使途が明確になった仮払金については、経費等の勘定科目に振替えているか。
・仮受金の計上
決算期末時点で仮受金に計上すべきか
決算期末時点で、売上等が確定して収益に計上すべき仮受金はないか。
税務調査事例(やってはいけない経理処理)
コンサルタント業を営む(株)A社は今期(5月31日決算)の業績が好調で、例年以上の所得計上が見込まれたので、納税額を少しでも減らす目的で利益調整を行った。
利益調整の手口は、5月20日に入金済みの(株)B社からのコンサルタント料2百万円を、売上計上すべきにもかかわらず仮受金に計上し、翌期(6月1日以降)に仮受金から売上に振替処理することによって、売上を除外する方法であった。
その後……後日(株)A社の税務調査が行われ、税務署の担当調査官から(株)B社の仮受金について質問されたが、関係証標類は誤って紛失したとの嘘の答弁をするとともに、曖昧な回答で逃げ切ろうとした。担当調査官は、事実確認するためには(株)B社への反面調査か必要だと判断し、帰署後、統括官(課長級)に復命して了解を得た。
担当調査官が(株)B社に反面調査を実施したところ(株)A社の発行したコンサルタント料2百万円の請求書及び領収証を把握するとともに、売上を仮受金に仮装して利益調整している事実を把握した。
担当調査官は(株)B社で把握した事実をもとに(株)A社の社長及び経理担当を厳しく追及した結果(株)B社からの売上2百万円を仮受金に計上することによって、利益調整した事実を認めた。
(その結果)
当然のことだが追徴税額は重加算税(本税の35%)対象となり(株)B社にも迷惑をかけてしまった。
3. 決算期末のチェックリスト
売上・雑収入関係
- 納品書及び請求書(控)、領収証(控)等から売上が適正に計上されているか。
- 期末の売上計上は適正に計上されているか。
- 売上の計上基準は明確になっているか。
- 売上値引きがある場合、計算根拠も含めて説明できるか。
仕入・外注関係
- 仕入及び外注費に関する証票類は税務調査時に提示できる状態か。
- 期末の仕入及び外注費の計上が適正に計上されているか。
- 仕入値引き等については適正に計上されているか。
期末棚卸資産関係
- 期末棚卸資産の明細表等の集計は正確であるか。
- 期末棚卸資産計上については、棚卸実施状況も含めて説明することができるか。
- 預け在庫及び積送品については計上しているか。
- 期末棚卸資産計上額には労務費が算入されているか。
人件費関係
- 決算賞与については要件を満たしているか。
- 決算期末までの人件費が適正に計上されているか。
一般管理費関係
- 一般管理費に関する証票類は税務調査時に提示できる状態か。
- 期末の一般管理費の計上が適正に計上されているか。
- 短期前払費用で損金計上した費用については、損金算入の要件を満たしているか。
その他
- 仮受金や前受金で売上計上すべきものはあるか。
- 仮払金の精算は適正にされているか。