元税務調査官が語る「税務調査のあらまし」

はじめに、このあらましは私の25年間に亘る国税調査官生活の経験に基づいたものです。現在は税務調査を受ける側の税理士をしていますが、税務調査や税務署について少しでも理解していただいて、国民の義務である納税を正しく行っていただくとともに、税務調査を受ける際の予備知識になれば、非常にありがたく思います。

なお、ご理解しやすいように若手経理マンとの対談方式で説明させていただきます。

目次

  1. 税務調査の基礎知識
  2. 調査対象候補の決定
  3. 税務調査の流れ
  4. 勘定科目別調査ポイント
  5. 調査官の雑談は要注意!?
  6. 税務署調査はここまで調べる!?
  7. 税務調査の準備はどうしたらいいの?
  8. 税務調査事前チェック項目

参考:税務署調査部門の職制

 

1.税務調査の基礎知識

①事業者にとって税務調査は宿命!?

若手経理マン
「税務調査とはどういうものなのか教えていただきますか?」

元国税調査官
「個人でも法人でも事業を行っている者にとって、税務調査を受けるのは宿命です。」

若手経理マン
「えっ!?税務調査は宿命ですか?」

元国税調査官
「もちろんです。事業者は申告納税制度によって自主申告するとともに納税を行っています。その制度の支えになっているのが税務調査です。」

若手経理マン
「そうなんですか?」

元国税調査官
「事業者である以上は、税務調査の対象になる可能性があることを肝に銘じておいて下さい。また、事業者でない方でも、相続税や贈与税などで税務調査を受ける可能性があります。」

②税務署は親切な役所!?

若手経理マン
「税務署のことですが、非常に嫌なイメージがあります。実際はどんな役所ですか?」

元国税調査官
「とても親切な役所です。特に窓口の応接関係は非常に丁寧で親切です!税務署員は接遇等の研修を定期的に受けており、申請・届出関係で来署したお客さんや税法関係の質問で来署したお客さんに対しては、親切かつ丁寧に対応します。 電話応対についても、いつも気をつけています。」

若手経理マン
「そうなんですか!これからは税務署と安心して付き合えますね……」

元国税調査官
「もちろん脱法行為については毅然とした態度で接しますけど(笑)」

③税務調査での調査官への昼食準備は御法度!!

若手経理マン
「税務調査当日の昼食は調査官の分も用意すべきでしょうか?」

元国税調査官
「答えはノーです。昼食は用意すべきではありません。」

若手経理マン
「そうなんですか?」

元国税調査官
「調査官は、税務調査先で昼食の提供を受けてはならないと税務署の上司から厳しく指示されています。それに調査当日の昼休みは受け手の「作戦タイム」でもあります。午前中に調査官がどこをポイントとして調査展開しているかをよく確認して、午後からの調査に備えるべきです」

④突然、税務調査にやって来るケースはあるのか?

若手経理マン
「事前通知なしで、突然、税務調査にやってくるケースがあるのですか?」

元国税調査官
「あります! 原則は事前通知を行うのですが、次のようなケースは事前通知が行われなずに無予告で税務調査が行われます。

  • 納税者が重加算税の対象となる脱税(仮装隠蔽)行為を行っていると想定されるケース
  • 飲食業や小売業など、不特定多数の者と現金決済で商売を行っているケース

上記のような納税者に対しては、事前通知なしで税務調査が行われることがあります。」

若手経理マン
「事前通知なしで調査官が税務調査にやって来た場合は、どのように対応したらよろしいですか?」

元国税調査官
「まず、気持ちを落ち着かせることです。 調査官に『何故、事前通知なしで税務調査を行うのか?』と理由を聞くようにしてください!次に税理士と顧問契約している場合は必ず税理士に連絡を行って、どのように税務調査を受けるのかを相談してください!」

若手経理マン
「税理士がいない場合はどのようにしたらよろしいのですか?」

元国税調査官
「もし、仕事等の都合で税務調査の日程を延期してほしい場合は、調査官に理由を説明した上で、丁重にお願いしてください!次に具体的な調査内容について、調査官から確認しておくべきです。一番大事なことは、調査官の調査方法や指摘事項に納得できない場合は、納得するまで調査官に質問することです。安易に妥協して、後で後悔するようなことはことは避けてください。」

若手経理マン
「よくわかりました。冷静に対処することが大事ですね……」

⑤調査官とは、税務調査での一期一会

若手経理マン
「国税という職場は転勤が多い職場だと聞いたことがありますが?」

元国税調査官
「そのとおりです。多くの職員は3~4年で転勤ですので、同じ調査先に2度調査に行くことは、滅多にありません。したがって、調査官との付き合いは一期一会だと言えます。税務調査中に調査官に大いに意見を主張したとしても、次の調査に影響はしませんので遠慮は禁物です。」

⑥税務調査にお土産は必要なし!

若手経理マン
「税務調査時には、お土産が必要だと聞きましたが?」

元国税調査官
「お土産の意味はよくわかりませんが、調査官が調査先から物を貰うことは禁じられてます。それともいわゆる「税務調査での修正事項」のことでしょうか。調査官は、税務調査先から手ぶら(申告是認)では帰れないのではという人もいますが、それは誤りです。まったく問題のないところから追徴課税をすることはできません。したがってお土産を用意する必要ありません。お土産を用意した場合は、税務調査官に他に大きな問題点があるのではないかと疑われる可能性があり、逆効果です。」

⑦税務調査官はつらいよ!?

若手経理マン
「税務調査官は納税者にとっては厄介な存在と言えますが……」

元国税調査官
「税務調査官も基本的には他のサラリーマンと同じです。もちろん転勤もありますし、中には単身赴任している者もいます。」

若手経理マン
「まったく希望していない部署に配属されるケースもあるのですか?」

元国税調査官
「当然あります。税務職員になってから法人課税部門一筋で勤務していた者が、徴収部門などに配置換えになるケースもあります。通常は、税務大学校での研修後に配置される部門(法人課税部門や個人課税部門など)を中心に、勤務することになります。」

若手経理マン
「税務調査の仕事には目標があるのですか?」

元国税調査官
「表立っての数字の目標、例えば増差税額をいくら稼がなければいけないということはありませんが、年間に税務調査を何件程度実施しなければいけないかという計画目標はあります。先ほど、増差税額等の目標はないと言いましたが、確かに目標自体はありませんが、税務調査という仕事は、具体的な数字が付きまといますので、部門間や同僚との間での競争意識が働き、数字を気にしている調査官が大部分だと思います。」

若手経理マン
「営業マンみたいですね!!」

元国税調査官
「申告是認(問題なし)が続くと胃が痛くなりますよ(笑)」

⑧税務調査先いろいろ……

若手経理マン
「税務調査官はさまざまな会社を調査されると思いますが、どこの会社も協力的ですか?」

元国税調査官
「税務調査に協力的である会社もあれば非協力的なところもあります。調査初日に調査先の玄関のドアを開けるときは緊張しますよ(笑)」

若手経理マン
「税務調査官も人の子ですね!」

元国税調査官
「税務署を目の仇にしている社長もいますし、調査初日の挨拶時から、喧嘩腰の社長もいますので(笑)」

若手経理マン
「ストレスが溜まりそうですね……」

元国税調査官
「任意調査(納税者の同意をもらって行う調査)の場合は、協力してもらわなければ税務調査は進まないので、説得して税務調査に協力してもらうには一苦労ですよ(笑)」

若手経理マン
「調査先の会社にとっては税務調査の日当をもらうわけではないので税務署の調査官は招かざる客と思ってしまうのでしょうか?」

元国税調査官
「そうですね!会社にとっては税務調査対応で人手をとられるし、追徴課税される可能性もあるのですから、マイナスのイメージになってしまいますね。でも、税務調査が入ることによって自社の経理状況が見直され、改善されるわけですからプラスの面もありますよ。」

若手経理マン
「今後、税務調査を受ける会社にアドバイスを教えてください。」

元国税調査官
「会社にとって税務調査を受けるのは宿命ですが、真面目に正確な経理処理を行っていれば、税務調査を恐れる必要はありません。経理事務の定期検診を受診しているという前向きな発想で税務調査を受けてください!!」

若手経理マン
「よくわかりました。日ごろから適正な申告を心掛けるのが大事ですね。ありがとうございました。」

 

2.調査対象候補の決定

若手経理マン
「まず、どのような会社が税務調査の対象になるのですか?」

元国税調査官
「基本的に税務調査の対象となるのは、問題点(追徴税額)がありそうな会社です。具体的にどのように選ばれのかは、次の事項を総合勘案して決定されます。」

①前回調査からの経過年数

前回調査または設立日から3期(年)以上経過している会社が対象となる可能性が高いですが、申告においての異常計数が多い会社や、資料情報があるため早く調査を実施しなければならない会社においては、2期(年)あるいは1期(年)が経過した時点でも税務調査実施の候補に選ばれるケースがあります。

②申告においての異常計数が目立つ会社

例えば、前期に比べて売上が増加しているにもかかわらず、営業利益や申告所得が減少している会社や、例年に比べて多額の経費計上がある企業などの異常計数が目立つ会社は、税務調査実施の候補に選ばれます。

③資料情報がある会社

税務署は国税庁という全国展開している大組織の中の1支店なので、会社に対する資料情報は蓄積しており、その中で脱税行為(重加算税対象)の問題点ありの可能性が高い企業については、税務調査実施の候補に選ばれます。

④前回調査で脱税行為(重加算税対象)を行っていた会社

前回調査で脱税行為(重加算税対象)を行っていた会社は、また同じ誤ちを繰り返す可能性があるとともに、是正状況についても確認する必要がありますので、税務調査実施の候補に選ばれます。

⑤長期未接触法人

申告においての異常計数もなく、問題のある資料情報もない企業については、通常は税務調査実施の候補からは外れます。しかし前回調査から5期(年)以上経過しており、ある程度の売上金額や申告所得がある企業は、定期検診という意味合いで税務調査実施の候補に選ばれるケースがあります。

 

3.税務調査の流れ

若手経理マン
「税務調査はどのような流れで行われるのか教えていただけますか?」

元国税調査官
「税務調査は、概ね2、3日間にわたって行われますが、一般的な税務調査の流れについて説明します。」

①調査1日目午前中

調査官が来社するのは、大体10時ぐらいです。その際に必ず身分証明書の提示がありますので、しっかりと確認してください。
午前中から直ちに帳簿などを見始めることは少なく、まず、雑談を交えながら会社概況の聴き取り調査を行います。雑談は、天気ネタ、景気ネタ、プロ野球ネタあるいは前回の税務調査で社長の趣味を把握している場合は、趣味ネタなどで、調査官は気さくに話かけてきますが、実は帳簿に記載されていない部分の聴き取り調査を行っていますので、警戒心をもって慎重に会話してください!うっかり余計なことをしゃべると、そこが調査項目になりかねません。
ベテランの調査官になると雑談から会社概況聴き取り調査へと流れるように進めて行きます。

具体的な聴き取り事項は

  • 会社の沿革
  • 業務内容
  • 営業方針
  • 取引先の範囲、取引条件
  • 金融機関との取引条件
  • 役員及び幹部社員の氏名と職務の内容
  • 従業員の状況(責任者、従業員、従事内容)

等々です。

②調査1日目午後

午後から本格的な帳簿がスタートします。

通常は、売上勘定について、売上請求書、納品書、売上帳、当座帳等を基に売上が正しく計上されているか否かを調べます。
進行期の売上を精査し、直前期において計上すべきであった売上がないかを調査します。
売上の計上基準は、商品の販売なら出庫基準、役務の提供なら役務の提供が終わった時等になります。
また、関連して売上以外の資金の流入についても、説明できない資金流入の有無を確認します。
次に、仕入についても調査を行ないます。仕入については、架空仕入や在庫の計上漏れがないか等が重点項目になります。また、製造業などにおいては、仕掛品の計上が正しく行われているかも確認します。
イレギュラーのケースとしては、調査官が脱税行為(重加算税対象)に関する資料情報を携帯しているときは、資料情報の解明作業から帳簿調査を行います。
なお、帳簿調査の合間に現況調査や現金監査が行われるケースがあります。

・現況調査

調査官は脱税行為(重加算税対象)の証拠となる書類・現預金等を把握するため、社長及び経理担当者の机及び金庫・書類保管場所の中を調べることがあります。
現況調査は調査1日目に実施されるケースがほとんどですか、調査1日目は調査を受ける側の警戒心が強いため、警戒心の緩んだ調査2日目以降に実施されることがあります。

・現金監査

調査時の現金残高と現金出納帳残高が一致しているかを確認する作業です。現金が不一致の場合は原因追及に時間を取られるため、調査日数が追加されたりします。また調査官に経理全体が杜撰な会社であるとの印象を与える場合があります。

調査は概ね午後4時30分頃に終了し、翌日に持ち越されます。
調査官は、署に立ち戻り、その日の調査内容に統括官(課長級)に復命し、翌日の指示を受けますが、統括官の指示内容によっては調査展開がガラリと変わる場合があります。

③調査2日目

2日目の午前は、引き続き前日の事項を調査し、さらに源泉所得税関係の調査を行ないます。
これは、架空給与や役員賞与、未払賞与、税理士・弁護士・司法書士等に対する源泉の処理、現物給与(保険、飲食費、社宅の家賃、高額な社員旅行、高額の旅費、日当等々)が正しく処理されているか否かを調査します。
午後からは、経費関係についての調査です。これは、多岐にわたりますが、交際費課税が適切であるか、個人的支出が法人の経費になっていないか、償却資産であるにもかかわらず経費処理していないか、資本的支出を修繕費としていないか等について調査します。さらに消費税及び印紙紙についての調査が行なわれ、一応、調査項目は終了します。
もちろん、2日間で充分調査しきれなかった項目については、引き続き実地調査、追加資料提出要請、取引先や取引金融機関への確認作業等を必要に応じて行います。

④その後

調査後3~4週間程度で指導事項についての税務署側の考え方をまとめて、通常、顧問税理士経由で連絡があります。連絡の内容は、修正申告を求めてくるケースと修正は求めず指導にとどめるというケースもあります。
修正申告の求めに応じるか否かはあくまで納税者の意思で、税務署の主張に納得がいかないようなら、修正申告をする必要はありません。 この場合、税務署はその内容に十分根拠を有している場合は更正決定という処分を行います。多くの場合は、若干の不満を残しながらも、納税者側で修正申告に応じているケースが多いようです。 これは、不満は残るが税務署の主張を覆すだけの絶対的な自信がなかったり、全面的に戦った場合他のことも指摘されることを恐れるという心理が働いたり、これ以上調査で時間を取られるのは困るという働く結果であろうと思われます。

 

4.勘定科目別の調査ポイント

若手経理マン
「勘定科目別の調査ポイントについて教えていただけますか?」

元国税調査官
「勘定科目別の調査ポイントは以下の8つのとおりです。」

  1. 売上計上
  2. 仕入計上
  3. 外注費
  4. 棚卸
  5. 人件費
  6. 雑収入
  7. 資産勘定
  8. 負債勘定

①売上計上

イ 取引状況の聴取
取引状況について、受注から代金回収までの管理の状況及びどのような書類を作成しているかを聴き取りする。

  • 受注・・・受注伝票、メモなどは、作成されているか。
  • 出荷納品・・・出荷・納品に関する台帳、納品書の作成時期と 納品書(控)作成者は誰か。
  • 運送 荷送状(控)・・・運送手段や方法は何か。また、運賃負担はどちらか。
  • 請求 請求書(控)・・・請求書の作成は、何を基に、いつ誰が作成するか。
  • 代金の回収 領収証(控)・・・集金方法は何か。領収証は何冊使用しているか。

※作成書類については、どんな様式及び納品書、請求書、領収証は一連番号を付しているかの確認も行う。

ロ 売上に関する証票類の把握と帳簿等のとの照合

  • 聴取りで把握した証票類の保管場所の確認
  • 品名、数量、単価などの内容確認。(例 A社とB社の単価はなぜ違うのか)
  • 受注から商品等の手配、そして引き渡しまでの一連の流れを証票類から検討
  • 証票類及び帳簿類の照合で、不一致はないか
  • 不一致が生じた時は、原因についての解明を行う
  • 調査先での原因解明が困難な場合は、取引先への反面調査によって解明が行う

ハ 帳簿等の内容検討

  • 通常の取引と異なる取引先やイレギュラーな取引は、証票類の念査、決済状況の検討、所在の確認などを行うとともに、必要に応じて反面調査を実施して確認する。
  • 商品の動きから、その売上計上時期の正否を検討する。

②仕入計上

イ 取引状況の聴取

発注から入庫、代金支払までの間に記録、作成される各種の伝票、帳簿類、メモなどが、いつ、誰によって作成され、どこに、誰が保管しているかを聴き取りする。

ロ 証票類からの検討

通常に比べて高額なものなどイレギュラーな仕入については、その理由及び仕入の事実を仕入担当者から確認するともに、納品書等の納品記録からの数量チェックを行い検討する。納品書、請求書、領収証などの証票類により検討して、不審が認められ、仕入先への確認が必要な場合は、反面調査が行われるケースがある。

税務調査官の着目点

  • 住所、電話の記載がなし
  • 筆跡、三文判
  • 金額がラウンド数字

ハ 仕入帳の検討

請求書及び領収証等の証票類と仕入帳を照合するとともに、決済状況や物(商品、製品)の動きからも検討する。

税務調査官の着目点

  • 期末に多額の仕入計上
  • 買掛金残高が取引金額に比べ異常
  • 遠隔地で単発取引

③外注費

イ 外注費と対応する売上を照合し検討する。

税務調査官の着目点

  • 対応する売上の有無
  • 利益(率)が異常ではないか

ロ 請求書や領収証等の証票類から検討する。

税務調査官の着目点

  • 異なる外注先で筆跡、印影等が類似するものはないか
  • 外注先の実在を確認できるか
  • 特定月に異常、多額の決済をしているものはないか
  • 決済が変則的なものや著しく遅延しているものはないか

④ 棚卸

イ 棚卸実施状況の聴取

棚卸実施状況については、次の1~7の事項を中心に聴き取りする。

  1. 実地棚卸の実施日時
  2. 実地棚卸方法(具体的に)
  3. 実地棚卸の担当者(全員か、特定者か、その日の出勤状況は?)
  4. 決算期末以外の実地棚卸の実地の有無
  5. 棚卸表(一定様式か、メモ書きか、担当者の署名はあるのか?)
  6. 棚卸高の集計方法(誰が、何に基づいていつ集計するのか?)
  7. 棚卸の原始記録の保存状況(誰が、どこに)

ロ 関係書類からの検討

棚卸を実施した際のメモなどの原始記録を把握して、申告書の棚卸明細書と照合し検討する。
※調査日現在の在庫を基に、期首にさかのぼって受払を計算して検討するケースもある。

税務調査官の着目点

  • 期末直近の仕入及び翌期首の売上との対比、検討
  • 預け在庫及び積送品の有無
  • 製造(加工)工程からの検討

⑤ 人件費

イ 給料、賞与の検討

正社員よりも、短期アルバイトなどの雑給が、源泉徴収も含めて問題点が発生しやすいため、雑給を中心に検討するケースが多い。人件費の検討に当たっては、机、ロッカー、配席図、組織図、氏名ゴム印などからも確認する。

タイムカード(出勤簿)及び業務日報等からの勤務状況の検討

税務調査官の着目点

  • 出退社時間がほぼ一定又は経理担当者と同一の者は要注意

給与(賃金)台帳の検討

税務調査官の着目点

  • 源泉徴収、年末調整がない
  • 社会保険の適用がない
  • 各種控除がない
  • ラウンド数字の固定給
  • 諸手当の支給がない

※経理担当者以外の従業員に対しても、勤務状況等の質問調査を行うケースや住民税課税台帳及び住民登録の確認(市町村への反面調査)を行うケースがある。

ロ 労務費の検討

  • 現場責任者が作成している出面帳、作業日誌の検討
  • 有償支給される地下足袋や手袋の支給状況の検討
  • 賄費(食事代)、貸布団代などの徴収の有無から検討

⑥ 雑収入

雑収入は、単発、臨時的取引が多く、計上漏れなどの問題点が発生しやすいので、業種・業態を十分把握してから検討する。
主な例を紹介する。

  • 貸倒損失として処理した債権を回収したもの
  • スクラップ、副産物、廃液等の処分益
  • 外注先に対する機械、重機、車両、工場内事務所等の賃貸料収入
  • リベート、販売(促進)協力金収入
  • 工事附帯収入(残材」の処分益など)

※計上漏れなどの可能性が大きい場合は、相手先への反面調査を行うケースがある。

⑦資産勘定

イ 現預金の検討

現金監査
現金管理は、経理の基本業務で重要調査項目であるため、調査当日の現金残高と現金出納帳残高の照合を行う。

  • 現金残高と現金出納帳残高の照合で不一致はないか
  • 不一致が生じた時は、原因についての解明を行う
  • 現金の保管場所の確認

預金の把握
預金については、あらゆる機会をとらえて簿外預金及び代表者等の個人預金を把握する。

  • 預金津長の保管場所の確認
  • 名刺フォルダー及び連絡先一覧表、カレンダーなどから簿外取引の銀行がないかを確認する
  • 機会があれば、代表者の自宅に臨場して、個人預金の把握に務める
  • 個人預金の中に、簿外取引がないかを確認する

ロ 売掛金の検討

・売上帳(得意先台帳)から売掛金を集計、検算するとともに、決算額と照合する。
・多額の返品、値引き等はないか。

ハ 仮払金の検討
仮払金は、故意に費用科目に振り替えることが容易であり、利益調整に利用されるケースがあるため、要注意の科目である。

・ 経費等に振替処理している場合には、領収証等の証票類から計上の適否を検討する。
・長期の仮払金については、内容及び利息の必要性について検討する。
・役員及びその同族関係者に対する仮払金の使途を確認する。

⑧負債勘定

イ 買掛金・未払金の検討

  • 連年推移からみて異常に増加していたり、事業規模・形態等からみて多額なものなど、不審なものはないか
  • 決算期末に、多額計上あるいはラウンド数字で不審なものはないか
  • 長期未決済になっているものはないか

ロ 仮受金・前受金の検討

収益計上すべきものの有無について関係証票類等から検討する。

ハ 借入金の検討

  • 役員及びその同族関係者からの借入金については、その資金出所を把握し検討する
  • 簿外資金を役員借入金の科目を利用して本勘定に受け入れ、運転資金としてしようしていないか

5.調査官の雑談は要注意!?

若手経理マン
「税務調査の当日において調査官との応対で注意すべき事項について教えていただけますか?」

元国税調査官
「調査官との雑談については注意が必要です。税務調査官の調査での第一目的は、帳簿等に記載されていない売上除外などの簿外取引を見つけることです。これは帳簿調査だけで見つけるには困難のため、聴き取り調査が重要となってきます。事務的な会話の聴き取り調査では、調査される側も警戒して真実のことを喋らない恐れがあるため、趣味、経歴、交友関係、日常等を雑談を交えながら気軽な雰囲気で会話する手法で、帳簿等に記載されていない部分の聴き取り調査を行っています。」

雑談に関しての注意事項について

  • 余計なことは喋らない
  • 調査能力の高い調査官こそ雑談が上手
  • ベテラン調査官ほど雑談時間が長い
  • 経歴や交友関係を喋るときは慎重に
  • 雑談でも、まじめな印象を与えるように心掛ける

税務調査時の注意事項

  • 挑発的な態度はしないように(挑発的な態度に燃え上がる調査官もいる)
  • 調査官の質問に対して回答をコロコロと変えないように(調査官の心情としては信用できなくなる)
  • 税務調査中の調査官は敵である(調査官に心を許さぬように気を付ける)
  • 調査官との会話中は目をそらさないように(調査官に誤解を与えるケースがある)

 

6. 税務署調査はここまで調べる!?

若手経理マン
「では、税務調査はどこまで調べるのか教えていただけますか?」

元国税調査官
「税務署は全国展開している国税庁という大組織の中の1支店であり、とんでもない情報収集能力を持っています。なので税務調査対象の企業の取引情報を調査を実施する前段階で、ある程度把握しています。また、市町村と協力関係にありますので社長を含めた役員や主な従業員(経理担当等)の収入状況及び家族状況などの個人情報も把握しています。調査官は、税務調査本番までに相当な情報を有しており、調査重要ポイントを絞って効率よく税務調査を実施することに心掛けており、不審点については、必ず解明するように上司(統括官)から指示されています。

税務調査は、主に帳簿及び書類が保管している事務所で行いますが、製造業であれば工場、小売業であれば店舗などの現場確認を行うとともに、従業員にも業務内容の聴き取りも行う場合があります。

通常は、帳簿調査を中心に実施するが、現況調査や現金監査なども行います。事実関係の確認で、調査先のみでは困難な場合は、取引先や銀行に臨場して、確認調査を行う反面調査を実施します。
また、深度ある反面調査が必要な場合は、取引先の所轄税務署に依頼して、取引先への税務調査を実施してもらい事実関係の確認を行う連携調査を実施します。反面調査や連携調査が行われた取引先には、時間も含めて迷惑をかけてしまうとともに信用問題にも関わることもあります。

税務調査は担当調査官のみで行われるのではなく、全国展開している国税庁という大組織で行いますので、どんなに巧妙な手口を使っても脱税行為は必ずバレてしまいますので、適正申告に心掛けましょう!」

連携調査について
連携調査とは、同族会社のある会社の税務調査や取引関係の解明が困難とされる会社の調査について、関係会社とともに同時期もしくは直前直後に税務調査を行い、調査担当者同士で互いに調査情報を共有することによって、調査効率を高めて全容解明を行うことを目的とした調査である。

 

7. 税務調査の準備はどうしたらいいの?

若手経理マン
「税務調査を受ける側の会社側は、税務調査の日までに何を準備すべきなのかを教えていただけますか?」

元国税調査官
「準備する項目は次とおりです。」

  1. 日々の取引の流れを説明できるようにしましょう。
    誤解を招いて税務調査が長引かないようにするための予防策です。
  2. イレギュラーな取引こそ説明できるようにしましょう。
    これも税務調査が長引かないための予防策です。反面調査が実施されないためにも重要です。
  3. 売上や棚卸商品などの主な勘定科目の期末計上をチェックしましょう。
    必ず期末の計上は確認されます。
  4. 代表者の個人的費用と勘違いされやすい支出を説明できるようにしましょう。
    グレーゾーンを明白にし、否認されないための予防策です。
  5. 過去の調査での修正事項及び指導事項をチェックしましょう。
    調査官にとっては調査重要項目です。
  6. 現金残高と現金出納帳の残高は必ず合わせましょう。
    現金監査も調査重要項目の1つです。
  7. 机の上、中、金庫、書類棚は整理整頓を心がけましょう。
    確認調査が行われるケースがあります。
  8. 調査時の電話及び来客等の応対は慎重にしましょう。
  9. 調査官との会話は目をそらさないようにしましょう。

※3と6は否認されやすい項目ですので要注意です。説明力が大事ですので、当日までにしっかり準備しましょう。

 

8. 税務調査事前チェック項目

元国税調査官
「税務調査において守る側の経理担当者が事前にチェックすべき項目について、まとめてみましたので、参考にしてください。」

Ⅰ.帳簿書類の準備(通常は3期分)

  1. 総勘定元帳
  2. 売掛帳及び買掛帳
  3. 現金出納帳
  4. 期末棚卸資産の明細表
  5. 売上の関係書類(見積書、納品書、請求書(控)、領収証(控))
  6. 仕入及び一般管理費の関係書類(請求書、領収証)
  7. 賃金台帳及び源泉徴収関係
  8. 消費税課税区分の一覧表
  9. 契約書及び議事録

Ⅱ.事業概況等

  1. 会社概況や取引状況について正確に説明できますか
  2. 遠隔地取引や単発などのイレギュラーな取引について説明できますか
  3. 現金残高と現金出納帳の帳簿残高は一致しますか
  4. 法人名義の預金通帳等は、会社に保管していますか
  5. 調査当日に社長及び経理担当者の机、金庫等の中を調べられても大丈夫ですか
  6. 調査当日にPC(ごみ箱も)をチェックされても大丈夫ですか
  7. 調査当日に事務所、店舗、工場、倉庫等の実地確認されても大丈夫ですか

Ⅲ.売上・雑収入関係

  1. 納品書及び請求書(控)、領収証(控)等から売上が適正に計上されていますか
  2. 期末の売上計上は適正に計上されていますか
  3. 受注から売上計上までの一連の流れを説明できますか
  4. 売上の計上基準は明確になっていますか
  5. グループ法人または役員親族間の取引金額は適正ですか
  6. 個人事業者から法人成りの場合、個人時代の預金口座に売上代金が入金されていませんか
  7. 売上値引きがある場合、計算根拠も含めて説明できますか
  8. スクラップ、副産物の売却代金は雑収入に計上されていますか
  9. リベート収入等は雑収入に計上されていますか

Ⅳ.仕入・外注関係

  1. 仕入及び外注費に関する証票類は調査官に提示できる状態ですか
  2. 期末の仕入及び外注費の計上が適正に計上されていますか
  3. 紛失した証標類がある場合、取引内容及び取引先への確認が可能ですか
  4. 仕入値引き等については適正に計上されてますか
  5. イレギュラーな取引について、取引開始の経緯を含めて説明できますか
  6. グループ法人または役員親族間の取引金額は適正ですか
  7. 給与課税対象になる外注費はありませんか
  8. 従業員から外注先になった者の外注費計上の正当性は説明できますか

Ⅴ.期末棚卸資産関係

  1. 期末棚卸資産の明細表等の集計は正確ですか
  2. 期末棚卸資産計上については、棚卸実施状況も含めて説明することができますか
  3. 預け在庫及び積送品については計上していますか
  4. 期末棚卸資産計上額には労務費が算入されていますか

Ⅵ.人件費関係

  1. タイムカードまたは出勤簿等の勤務状況資料を含めて、人件費計上の流れを説明できますか
  2. 退職したアルバイトなどの非正規社員については、その者の住所等も含めた詳細説明ができますか

Ⅶ.一般管理費関係

  1. 一般管理費に関する証票類は調査官に提示できる状況ですか
  2. 期末の一般管理費の計上が適正に計上されていますか
  3. 短期前払費用で損金計上した費用については、損金算入の要件を満たしていますか
  4. 紛失した証標類がある場合、取引内容及び取引先への確認が可能ですか
  5. 接待交際費と他の勘定科目との区分は適正にされていますか
  6. 旅費規定作成を含めた旅費精算は適正にされていますか
  7. 修繕費と資本的支出の判定は適正にされていますか
  8. 商品評価損の計上がある場合は、資料に基づいて説明できますか
  9. 貸倒損失の計上がある場合は、資料に基づいて説明ができますか
  10. 従業員に家賃や昼食の補助を行っている場合、源泉所得税課税は大丈夫ですか
  11. 保険料については、資産計上分と損金計上分を適正に区分していますか
  12. 交通違反金などの罰科金は、法人税申告書で損金不算入にしていますか

Ⅷ.その他

  1. 仮受金や前受金で売上計上すべきものはありませんか
  2. 仮払金の精算は適正にされていますか
  3. 役員に対する貸付金には利息収入を計上していますか
  4. 固定資産の除却損がある場合は、証拠資料等で説明できますか
  5. 役員退職金については、損金算入の要件を満たしていますか
  6. 消費税申告の計算において、課否判定は適正にされていますか
  7. 契約書や領収証には適正な収入印紙が貼付されていますか

 

参考:税務署調査部門の職制

若手経理マン
「税務調査を行う税務署の調査部門の組織について教えていただけますか」

元国税調査官
「税務署の調査部門の組織及び職制についてですが、税務署の調査部門には民間会社のように課長、係長などの名称の役職はなく、独特な名称の役職があります。なお、税務署で課長、係長などの役職がある部署は、税務調査を担当しない総務課のみです。なお、税務署の職制についてさらに詳しく知りたければこちらの記事『税務署の組織力 その1』『税務署の組織力 その2』をご覧ください。」

若手経理マン
「いろいろと参考になりました。ありがとうございました!」

職制について

◇ 統括国税調査官
税務署の課長級  調査先の選定、調査担当者の復命管理
*税務調査折衝の窓口責任者
年齢幅は40代前半~60歳前後

◇ 上席国税調査官
税務署の係長級  調査担当者で若手職員の指導にも当たる。
*困難調査事案を担当したりもする。
年齢幅は35歳前後~60歳前後

◇ 国税調査官
税務署の主任級  調査担当者
*年齢幅は20代後半~30代後半

◇ 事務官
税務署の一般職員  調査担当者
*年齢幅は20歳前後~30歳前後

◇ 特別国税調査官
税務署の副署長・課長級
*税務署所管(資本金1億円未満が大部分)の中で規模の大きい会社の調査を担当年齢幅は40代後半~60歳前後

様々な税務調査官

現在の多様化した経済取引の税務調査に対応するため、各専門分野のスペーシャリストを調査官として配置しています。

① 特別調査班
・第2部門などに配置され、大口不正(脱法行為)が想定される会社の税務調査を行う。
・原則、事前通知なしで複数の人数で税務調査を行う。
*小規模の税務署などには、特別調査班が配置されていない。

② 機動官
・大規模の税務署に配置され、周辺の複数の税務署を併任して、資料収集を行うとともに、困難調査などの調査支援を担当する。

③ 国際税務専門官
・大規模の税務署に配置され、周辺の複数の税務署を併任して、国際取引のある会社に対する税務調査支援を担当する。
・国際税務専門官には、国際税務専門官(課長級)の他に付職員として、上席調査官以下の調査官が配置されている。

④ 情報技術専門官
・大規模の税務署に配置され、周辺の複数の税務署を併任して、パソコン(電子機器)によって経理及び取引管理している法人に対する税調査支援を担当する。
*主に規模の大きい会社の税務調査の支援を行う。
・情報技術専門官には、情報技術専門官(課長級)の他に付職員として、上席調査官以下の調査官が配置されている。

⑤ 源泉機動調査専担者
・大規模の税務署に配置され、周辺の複数の税務署を併任して、源泉所得税に関する困難調査を担当する。

⑥ 間接諸税指導担当者
・大規模の税務署に配置され、周辺の複数の税務署を併任して、間接諸税(主に印紙税)に関する困難調査を担当する。

特殊な特別調査官

特別調査官とは、税務署の副署長級・課長級で、税務署所管(資本金が1億円未満が大部分)の中で、規模の大きい会社の税務調査を担当しますが、大規模署には、特殊な調査担当の特別調査官が配置されていますので、紹介します。

① 総合特別調査官

・税務署の副署長級で、大規模署の税務署に配置され、周辺の複数の税務署を併任している。
全ての税目の税務調査を一度で行う総合調査を担当。

*税務署の法人調査部門の調査官及び法人の特別調査官は、調査対象の会社の法人税及び消費税、源泉所得税、印紙税などを調査を行うが、会社の社長の所得税または相続税の調査は行わない。
総合特別調査官は、通常の法人調査担当が行う調査に加えて、相続税などの全ての税目の調査を、一度に行う総合調査を担当する。
・総合特別調査官には。付職員として複数の上席調査官以下の調査官が配置されている。

② 開発特別調査官

・税務署の副署長級で、大規模の税務署に配置され、周辺の複数の税務署を併任している。
・新ビジネスに関する資料収集
・新たな資料源開発(有効な資料情報を多量に収集できる手法を開発)