調査官もつらいんです……元国税調査官が経験談を吐露

経理担当者にとって、税務調査で攻めてくる調査官たちは非常に怖く、縁遠い存在に思える。しかし彼らもまた組織人。普通のサラリーマンと変わらない苦労もたくさんある。私の国税勤務25年の経験から、いくつかこぼれ話をご紹介しよう。

  1. 税務調査の調査結果が出るまで相当な日数を要する?
  2. 税務調査先いろいろ
  3. 上司への復命は絶対!
  4. 税務署も高齢化で昇進が困難な状況!?
  5. 税務調査官もつらいよ!?

 

1. 税務調査の調査結果が出るまで相当な日数を要する?

例え修正事項が簡単で納税者側(顧問税理士を含む)が納得しているケースでも、税務調査の結果が出るまでに相当な日数を要する。
以前であれば、例えば期末の売上計上漏れ数十万円などの簡単な修正事項であれば、統括官への復命終了から1週間以内に、調査結果が出るケースがあった。しかし、現在においては税務署の審理担当のチェックを受け、さらに副署長あるいは署長の了解を得てからでないと調査結果を出すことができない。調査初日から調査結果が出るまでに1か月以上を要するケースがほとんどである。

 

2. 税務調査先いろいろ

税務調査先もいろいろでストレスが溜まる?

税務調査に協力的である会社もあれば非協力的な会社もあり、ベテラン調査官でも調査初日に調査先の玄関のドアを開けるときは非常に緊張するものである。
また、調査先の中には税務署を目の仇にしている社長や経理責任者もおり、調査初日の挨拶時から喧嘩腰になるケースもある。

税務調査官も人の子!?

調査官も心を持った人間であり、調査先から挑発的態度をとられれば感情的になることもある。その結果、調査に対するヤル気に火がつくケースも多い。

 

3. 上司への復命は絶対!

調査官は帰署後、その日の調査内容を統括官(課長級)に復命し、翌日の指示を受けるが、統括官の指示内容によっては調査展開がガラリと変わる場合がある。
例えば、調査初日に売上計上について検討したが問題なかったため、調査2日目以降は原価及び一般管理費を中心に調査する予定であったとする。しかし復命時に統括官が再度、売上計上を検討するようにと指示を出せば、調査官は調査2日目以降も売上計上を検討することになる。

調査後の復命はつらいよ?

  • 調査現場で納税者側と対峙しながら調査を実施することは、非常に神経をすり減らし体力を消耗する。さらにその後、統括官に復命するのは調査官にとっては骨の折れる仕事である。
  • 調査現場を知らない統括官に調査状況を理解させなければ、ピント外れの指示を出されることもあるので非常に大変である。
  • 否認(追徴)事項があるケースは復命しやすいが、全く否認(追徴)事項がないケースなどは、調査自体に不手際がないかを確認するかのように事細かく復命させられることもある。

 

4. 税務署も高齢化で昇進が困難な状況!?

税務署(調査部門)は上席調査官だらけで統括官(課長級)への昇進が困難な状況である?

税務署には民間会社のように課長、係長などの名称の役職はなく、調査部門(課)は統括官(課長級)、上席調査官(係長級)、調査官(主任級)、事務官(一般職員)で6~8名程度で構成されている。
一番多いのが上席調査官クラスであり、上席調査官が末席を務める高齢の部門もある。このため部門で一人しかいない統括官クラスへの昇進が非常に困難な状況である。
※職制の詳細については「元税務調査官が語る「税務署の組織力その1」を参照のこと

かつての後輩が上司というケースも増加している!?

年齢が50歳以上の上席調査官も年々増加しており、統括官が40代で上席調査官が50代の部門も増加している。
また、かつて税務調査等の仕事を手取り足取り教えた後輩が上司になっているケースも増加している。

 

5. 税務調査官もつらい!?

税務調査官にも転勤はある

  • 税務調査官も他のサラリーマンと同じく転勤があり、中には単身赴任している者もいる。
  • 多くの職員は3~4年で転勤するが、その際希望していない部署に配属されるケースもある。
  • 通常は、税務大学校での研修後に配置される部門(法人課税部門や個人課税部門など)を中心に勤務することになるが、稀に、例えば法人課税部門一筋で勤務していた者が、徴収部門などに配置替えになることもある。

税務調査の仕事には目標があるのか?

表立っての数字の目標、例えば増差税額に関する目標はないが、年間に税務調査を何件程度実施しなければいけないかという計画目標は存在する。
なお増差税額等の目標はないということだが、税務調査という仕事は、常に具体的な数字が付きまとう。このため部門間や同僚との間での競争意識が働き、数字を気にしている調査官が大半であるのが実情である。