元税務調査官が語る!こうして調査先は選ばれる(調査事例)パート2

今回も前回に引き続き、攻める側の税務署の調査先選定ついて、調査事例を交えて紹介しよう。後半は申告書作成時の注意事項をまとめたので、今後の税務調査対策の参考になれば幸いである。

  1. 調査事例
    ・ 税務署の情報力に脱帽、仕入割戻金除外
    ・ 社長借入金はマークされる!?
  2. 申告書作成時の注意事項

1. 調査事例

■税務署の情報力に脱帽、仕入割戻金除外

卸売業を営むA社は、仕入先C社からの仕入割戻金を社長Bの個人預金口座に入金させることにより除外して、私的な交際費用に費消していた。

その後……
税務調査先を選定していたF税務署のK統括官の目に、ある資料情報が留っていた。

その内容とは、
「C社は売上先のA社に対する売上割戻金を社長Bの個人預金口座に入金している。」というものだった。

なお、A社の過去数年の申告書を検討したが、仕入割戻金の計上はなかった。
以上のことから、K統括官はA社に対する税務調査を実施することを決定した。

後日……
A社の税務調査が実施された。仕入割戻金に関する資料情報を携えた担当調査官の追及は厳しく、C社に対する反面調査及び社長Bの個人預金がある銀行にも銀行調査が実施され、仕入割戻金を計上していなかったことがバレてしまった。

(その結果)
当然のことだが、追徴税額は重加算税(本税の35%)対象となり、仕入先のC社にも迷惑を掛けてしまった。

■社長借入金はマークされる!?

Webサイト制作業を営むA社は今期(3月31日決算)の業績が好調で、例年以上の所得計上が見込まれた。社長Bは、今後の備えとして納税額を少しでも減らして事業資金に残したいという気持ちが先走ってしまい、悪いこととは思いながらも、ふと悪知恵を使ってしまった。
社長Bの手口は、架空に支払手数料を相手勘定:社長借入金とし計上して利益を圧縮することだった。

その後……
税務調査先を選定していたN税務署のM統括官の目に、A社の今期(3月31日決算)申告書が留まっていた。

  •  社長の役員報酬と対比して、異常なほどに社長借入金が増加している。
  • 今期(5月31日決算)の支払手数料が過去の期に比べて多額である。

以上のことから、M統括官はA社に対する税務調査を実施することを決定した。

後日……
A社の税務調査が実施され、社長借入金の増減状況を確認していた税務署の担当調査官は、相手勘定:社長借入金の支払手数料に着目して検討したところ、支出に関する証憑類も全くなかったため、社長Bを質問攻めにした。その結果、観念した社長Bは利益を圧縮する目的で、架空に支払手数料を計上していた事実を認めた。

(その結果)
当然のことだが追徴税額は重加算税(本税の35%)対象となった。

 

2. 申告書作成時の注意事項

申告書については、最も重要視される調査選定資料なので、誤解されないように注意して記載するように心掛けよう。

  • 申告内容に異常係数がある場合
    申告書の添付書類である勘定科目内訳明細書の備考欄及び事業概況説明書の備考欄に、異常係数の理由等を詳細に記載する。
  • イレギュラーなケースがある場合
    イレギュラーなケースは税務署の調査官が最もマークする事項なので、必ず申告書の添付書類である勘定科目内訳明細書の備考欄及び事業概況説明書に、イレギュラーになった理由等を詳細に記入する。
  • 勘定科目内訳明細書は安易に「その他」で纏めるのではなく、できる限り詳細に記載する。
    詳細記載することによって不明点がなくなり、信憑性が増す。
  • 今期に無くなっている預金口座がある。
    何時の時点で預金口座を解約した等を備考欄に記載する。
  • 過去数年において期末残高が同額の買掛金・未払金等がある。
    数年間、期末残高が同額である理由を備考欄に記載する。