確定申告の注意事項|元調査官が確定申告相談業務の経験を紹介

今回は、国税調査官時代に確定申告相談業務に従事した経験をもとに注意すべき事項を紹介しよう。

  1. 新しく個人事業主になった方
  2. 個人事業主の方
  3. 家内労働者等の方
  4. サラリーマン等の方

 

1. 新しく個人事業主になった方

開業前のセミナー参加費について

事業開始前に事業に関するノウハウ取得のためにセミナーに参加したが、そこで支払った費用は経費になるのか。
開業前に支払った事業経費であっても「開業費」として60か月の均等償却又は任意償却のいずれかの方法によって必要経費に算入される。

開業費とは?
個人が支出する費用(資産の取得に要した金額とされるべき費用及び前払費用を除く)のうち、事業を開始するまでの間に開業準備のために支出する費用である。

年の途中でサラリーマンから個人事業主になった場合

サラリーマン時代の給与所得と事業所得を損益通算することが可能だ。
例えば、事業所得がマイナス所得の場合は、給与所得からマイナス所得を差引くので、給与所得の源泉所得税額が還付になる可能性がある。

 

2. 個人事業主の方

自家用車を事業用に使用した場合

減価償却費の事業使用部分について必要経費になる。
減価償却費を事業使用割合で按分して算出した事業用部分について、減価償却費として必要経費になる。

親族に支払う地代家賃

生計を一にしない親族に支払う地代家賃であれば必要経費になる。
生計を一にする配偶者その他の親族に支払う地代家賃などは必要経費にならない。

生計を一にするとは?
生計を一にするとは、必ずしも同居を要件とするものではなく、例えば、勤務、修学、療養費等の都合上別居している場合であっても、余暇には起居を共にすることを常例としている場合や、常に生活費、学資金、療養費等の送金が行われている場合には、「生計を一にする」ものとして取り扱われる。

なお、親族が同一の家屋に起居している場合には、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、「生計を一にする」ものとして取り扱われる。
※所得税法基本通達2-47

親族に支払う賃金

生計を一にしない親族に支払う給与賃金であれば必要経費になる。
生計を一にする配偶者その他の親族に支払う給与賃金(青色事業専従者給与は除く)は必要経費にならない。

個人事業者の旅費の日当について

個人事業者の旅費の日当については必要経費にならない。
旅費の実費については必要経費になるが日当は必要経費にならない。

従業員の旅費日当について
従業員の旅費日当については必要経費となるが、その出張に関して通常必要と認められる金額を超えるものについては給与として課税されてしまう。
*支給金額の基準を明確にするため、「旅費規程」の作成が必要である。

借入金の利息について

業務用資産の購入のための借入金など、業務のための借入金の利息は必要経費になる。
生計を一にする親族に対して借入金利子を支払った場合は必要経費にはならない。

 

3. 家内労働者等の方

家内労働者等とは?
家内労働法に規定する家内労働者(いわゆる内職など)の方や、外交員、集金人、電力量計の検針人のほか、特定の人に対して継続的に人的役務の提供を行うことを業務とする人をいう。

家内労働者の定義
家内労働法第二条2項
この法律で「家内労働者」とは、物品の製造、加工等若しくは販売又はこれらの請負を業とする者その他これらの行為に類似する行為を業とする者であつて厚生労働省令で定めるものから、主として労働の対償を得るために、その業務の目的物たる物品(物品の半製品、部品、附属品又は原材料を含む。)について委託を受けて、物品の製造又は加工等に従事する者であつて、その業務について同居の親族以外の者を使用しないことを常態とするものをいう。

家内労働者等の特例

事業所得又は雑所得の金額は、総収入金額から実際にかかった必要経費を差し引いて計算することになっているが、家内労働者等の場合には、必要経費として65万円まで認められる特例がある。

ケース1 家内労働者等の所得が事業所得又は雑所得のどちらかの場合の控除額

実際にかかった経費の額が65万円未満のときであっても、所得金額の計算上、必要経費が65万円まで認められる。

ケース2 家内労働者等に事業所得及び雑所得の両方の所得がある場合の控除額

事業所得及び雑所得の実際にかかった経費の合計額が65万円未満のときは、必要経費が合計で65万円まで認められ、この場合には65万円と実際にかかった経費の合計額との差額を、まず雑所得の実際にかかった経費に加えることになる。

ケース3 家内労働者などによる所得のほか、給与の収入金額がある場合の控除額

  • 給与の収入金額が65万円以上あるときは、この特例は受けられない。
  • 給与の収入金額が65万円未満のときは、65万円からその給与の収入金額を差し引いた残額と事業所得や雑所得の実際にかかった経費とを比べて高い方がその事業所得や雑所得の必要経費になる。

この特例を受ける場合の注意事項
特例の必要経費額は、事業所得や公的年金等以外の雑所得の収入金額が限度である。
この特例に該当する所得しかない人で、その年の総収入金額が103万円以下の場合は、総所得金額が基礎控除額の38万円以下となり、本人に所得税は課されず、また、扶養者の所得税額の計算上、配偶者控除あるいは扶養控除の対象となる。

 

4. サラリーマン等の方

医師等による診療等を受けるため通院費

通院に必要な電車賃やバス賃などは医療費控除の対象となる。
医療費控除の対象となる通院費は、医師等による診療等を受けるため直接必要なもので、かつ、通常必要なものであることが必要とされており、電車賃やバス賃などのように人的役務の提供の対価として支出されるものをいう。
※自家用車で通院する場合のガソリン代や駐車場の料金は、医療費控除の対象とはならない。

薬局や薬店などで市販されている「かぜ薬」の購入費用

医師の処方や指示がなくても医療費控除の対象となる。
医薬品の購入費用は、治療や療養に必要なものであって、かつ、その病状に応じて一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額であれば、医療費控除の対象となる。
※所得税法施行令第207条

役員に就任している同族会社から、その会社からの給与等以外に20万以下の家賃収入がある場合

該当する役員は確定申告をする必要がある。
同族会社の役員及びその親族等で、その法人から給与等以外に貸付金の利子や地代家賃等の支払を受けている者は確定申告しなければならない。
*従業員の場合は給与の支払いが1か所から受けている者で、給与所得及び退職所得以外の所得の合計額が20万円以下の者は確定申告しなくてもよい。