雇用促進税制の改正で都市によって損得が発生!?

平成28年度税制改正大綱が昨年の12月に発表され、雇用促進税制の見直しが行われました。
見直しの結果、平成28年4月1日以降に開始する事業年度における雇用促進税制は、一部の都市(東京、大阪など)では使えなくなります。
一方で、今までは雇用促進税制と所得拡大税制との併用はできませんでしたが、雇用促進税制が使える地域では併用が可能になり、都市部を除く地方での雇用状況の改善を後押しする内容に見直されました。

  1. 雇用促進税制・所得拡大税制とは
  2. 雇用促進税制の変更点
  3. 雇用促進税制の適用を受けるには
  4. 所得拡大税制の適用を受けるには
  5. まとめ

1. 雇用促進税制・所得拡大税制とは

雇用促進税制は、その名の通り雇用を促進する目的で設けれた特例税制です。一定の条件を満たすと、雇用者の増加1人につき40万円の法人税(個人の場合は所得税)の税額控除を受けることができる税制です。※法人税額の10%(中小企業者等は20%)が上限

従業員を増やし事業を拡大していきたい企業にとっては非常にありがたい税制です。

所得拡大税制は、給与のベースアップ、賞与の支給額の増加といった雇用者への給与支給額アップにおいて、一定の条件を満たす場合に雇用者給与等支給増加額の10%を法人税(個人の場合は所得税)から税額控除できる税制です。(法人税額の10%(中小企業者等は20%)が上限 )

 

2. 雇用促進税制の変更点

平成28年4月1日以後に開始する事業年度で適用を受ける場合、下記の2点が従来の適用要件に追加されました。

  1. 有効求人倍率が全国平均の2/3以下の地域(平成28年4/1現在の同意雇用開発促進地域
  2. 雇用者はフルタイム、無期雇用(以下、正社員という)に限る

これまで、この税制を活用する上で有効求人倍率は関係なく、一定の条件を満たせば適用を受けることが可能でしたが、有効求人倍率が高い都市部では要件を満たしてもこの税制は使えなくなります。
また、これまで雇用者は雇用保険の被保険者(週に20時間以上、1ヶ月以上雇用)とされていましたが、正社員だけに限定されました。アルバイトやパートでの雇用ではこの税制の適用はできなくなります。

 

3. 雇用促進税制の適用を受けるには

雇用促進税制の適用を受ける流れとして、まず適用年度開始後2か月以内に「雇用促進計画」を作成し、ハローワークに提出します。そして適用年度終了後にハローワークに達成状況の確認をし、確認を受けた雇用促進計画の写しを確定申告書に添付して申告すると税額控除を受けることができます。

雇用者の増加が見込める場合、もしくは雇用者を増やしていく予定の場合は、適用年度開始後2か月以内に必ず「雇用促進計画」を提出するようにしましょう。

ハローワークの確認を受けるには、下記の適用条件をすべて満たす必要があります。

  1. 青色申告書を提出していること。
  2. 適用年度とその前事業年度に、事業主都合による離職者がいないこと。
  3. 適用年度に雇用者の数を5人以上(中小企業等の場合は2人以上)かつ10%以上増加させていること。
  4. 適用年度における給与等の支給額が、比較給与等支給額以上であること。
  5. 風俗営業等を営む事業主でないこと。

詳しく見ていきましょう。

1.青色申告書を提出していること

白色申告ではこの税制を活用することができません。

2.適用年度とその前事業年度に、事業主都合による離職者がいないこと

事業主都合というのは、本人事情による退職でないということ。
業績悪化に伴う解雇であったり、賃金の未払による退職、上司などからの不当な嫌がらせによる退職、業務規定違反による退職などはこれに該当します。

3.適用年度に雇用者の数を5人以上(中小企業等の場合は2人以上)かつ10%以上増加させていること

平成28年3月31日までに始まる適用年度については、雇用保険の被保険者(週に20時間以上、1ヶ月以上雇用)の従業員が5人以上(中小企業等の場合は2人以上)増加していなければなりません。平成28年4月1日以降に始まる適用年度においては、正社員の雇用者が5人以上(中小企業等の場合は2人以上)増加していなければなりません。

これまでは、アルバイト、非正規社員、パートも適用されておりましたが、正社員の雇用者のみが計算対象となります。
また、雇用増加割合(適用年度の雇用者増加数を前事業年度末日における雇用者数で割る)が10%以上でなければなりません。

具体的には以下のように計算を行います(両事例とも中小企業者とします。)

例1)平成28年4月1日より前に始まる事業年度

  • 適用年度:平成27年10月~平成28年9月
  • 平成27年9月末における雇用者数30人(正社員25人、パート5人)
  • 雇用者は全員雇用保険の被保険者
  • 平成27年10月~平成28年9月の間に、下記の従業員を雇いました。
  • 正社員2人(雇用保険の被保険者)
  • パート1人(雇用保険の被保険者)

3名増加、増加率10%
→適用要件を満たす
※増加率=3人/30人×100=10%

例2)平成28年4月1日以後に始まる事業年度

  • 適用年度:平成28年5月~平成29年4月
  • 平成28年4月末における雇用者数30人(正社員25人、パート5人)
  • 雇用者は全員雇用保険の被保険者
  • 平成28年5月~平成29年4月の間に、下記の従業員を雇いました。
  • 正社員2人(雇用保険の被保険者)
  • パート1人(雇用保険の被保険者)

2名増加、増加率8%
→適用要件を満たさない
※増加率=2人/25人×100=8%

 

4.適用年度における給与等の支給額が、比較給与等支給額以上であること

比較給与等支給額=前事業年度の給与等の支給額+(前事業年度の給与等の支給額 × 雇用増加割合 × 30%)

例)前事業年度の給与等の支給額が1億円で雇用増加割合が10%の場合

比較給与等支給額=1億円+(1億円×10%×30%)=1億300万円

5.風俗営業等を営む事業主でないこと

「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」に定められている風俗営業および性風俗関連特殊営業でないことが必要です。
ナイトクラブ、麻雀店、パチンコ店、風俗店などは適用できません。

 

4. 所得拡大税制の適用を受けるには

所得拡大税制は雇用促進税制のように、事前に提出する書類はありません。申告時に要件をすべて満たせば、活用することができます。

要件を見ていく前に、所得拡大税制で使用される、3つの期間について説明します。
適用年度、基準事業年度、前事業年度の3つは要件を満たしているか確認する際に必要となります。

  • 適用年度
    実際に所得拡大税制の適用を検討している事業年度です。
  • 前事業年度
    適用年度の前事業年度
  • 基準事業年度
    平成25年4月1日以後に開始する各事業年度のうち最も古い事業年度の直前の事業年度をいいます。

下の図を参考にどうぞ。

FireShot Capture 29 - - http___www.meti.go.jp_policy_economy_jinzai_syotokukakudaisokushin_saido経済産業省、「所得拡大促進税制のご利用の手引き」より加工、引用

下記の要件を全て満たせば、適用を受けることが出来ます。

  1. 給与等支給額が基準事業年度の給与等支給額と比較して一定割合(適用年度ごとに異なる)以上増加していること。
    ※一定割合:2~5%
  2. 給与等支給額が前事業年度の給与等支給額を下回らないこと。
  3. 平均給与等支給額が前事業年度の平均給与等支給額を超えていること。

詳しく見ていきましょう。

1.給与等支給額が基準事業年度の給与等支給額と比較して一定割合(適用年度ごとに異なる)以上増加していること。

給与等支給額とは、損金の額に算入される役員及びその特殊関係者(役員の親族)を除いた、国内雇用者をいいます。つまり、国内で勤めるその企業の正社員、パート、アルバイトに支給する給与、賞与などがこれにあたります。

割合は年度ごとに異なります。

  • 平成27年4月1日より前に開始する事業年度 …2%
  • 平成27年4月1日から平成28年3月31日までの間に開始する事業年度…3%
  • 平成28年4月1日から平成29年3月31日までの間に開始する事業年度 …4%(中小企業の場合は3%)
  • 平成29年4月1日から平成30年3月31日までの間に開始する事業年度…5%(中小企業の場合は3%)

2.給与等支給額が前事業年度の給与等支給額を下回らないこと。

適用年度の給与等支給額が前期事業年度よりも多くなければなりません。

3.平均給与等支給額が前事業年度の平均給与等支給額を超えていること。

平均給与等支給額を比較する際は、継続雇用者(雇用保険の一般被保険者で、前事業年度も雇われており、適用年度も現役、もしくは途中まで働いていた雇用者)に限ります。
前事業年度で雇われてはいたが、雇用保険の被保険者ではなく、適用年度になって被保険者となった者に関しては、前事業年度での平均給与等支給額には含めず、適用年度の平均給与等支給額には含めます。
但し、高年齢者雇用安定法に基づく「継続雇用制度」の対象者(定年60歳を超えて働いている人)に支給された給与等は計算に含めません。

(計算例)

平均給与等支給額の計算に含める雇用者とその雇用者に支給した給与等を前事業年度、適用事業年度ごとに割り出し、月ごとに算出します。

例)適用事業年度平成27年4月1日~平成28年3月31日、設立4期目

  • 基準事業年度(平成24年4月1日~平成25年3月31日)
    給与等支給額 300万円
  • 前事業年度(平成26年4月1日~平成27年3月31日)
    雇用者A(被保険者) 4月~3月(12か月)  月30万
    雇用者B(被保険者) 8月~3月(9か月)  月20万
    雇用者C         9月~3月(8か月)  月5万
    全体の月は12+9+8=29か月
    総額(12×30)+(9×20)+(8×5)=580万
  • 適用事業年度(平成27年4月1日~平成28年3月31日)
    雇用者A(被保険者) 4月~3月(12か月)  月30万
    雇用者B(被保険者) 4月~9月(6か月)    月20万
    雇用者C(被保険者) 4月~3月(12か月)  月10万
    雇用者D(被保険者) 10月~3月(6か月)  月8万
    全体の月は12+6+12=30か月
    総額(12×30)+(6×20)+(12×10)=600万
    ※雇用者Dは継続雇用者ではない

要件1
300万円÷580万円=51.7%>3% → 要件を満たす

要件2
580万円<600万円 → 要件を満たす

要件3
前事業年度平均給与等支給額 580万円÷29か月=20万円
適用事業年度平均給与等支給額 600万円÷30か月=20万円
20万円=20万円 → 要件を満たさない 

要件3を満たさない為、所得拡大税制を活用できない。

 

5. まとめ

平成28年4月1日以降に開始する事業年度において、雇用促進税制と所得拡大税制の併用が可能になります。

従来は、併用ができなかったため、新しく人を雇って、既存の従業員には、ベースアップ、もしくは賞与を施した場合で、両方の税制要件を満たす場合、有利な税制を選択するという形をとっていた為、大きな人材投資をした割には、節税効果が薄かったのですが、今回の改正に伴い、地方の企業は、人材の確保、人材の育成、人材強化等の人への投資を行った都市部以外の企業にとっては有効な改正となっています。

ぜひ、条件に当てはまりそうな場合は、活用をご検討下さい。