まだ間に合う?決算月の節税対策

決算月をむかえ、あらためて計算してみると思ったよりも利益がでていた!けれども手元には納税資金がそれほどない・・・
上記のようなことはよく聞く話しです。

こんな時のために、「決算月だけれどもまだ間に合う決算対策」について紹介したいと思います。
今回紹介するのはその中でも資金不要でできるものをピックアップいたしましたのでぜひご活用ください。

  1. 従業員給与の「締め日~決算期末」までの分を未払計上する
  2. 短期の前払費用の活用
  3. 社会保険料、固定資産税、償却資産税の未払計上する
  4. 決算期末までの経費の未払計上する
  5. 不要な償却資産の処分、有姿除却の活用
  6. 不良在庫の処分
  7. 貸倒引当金の計上

 

1. 従業員給与の「締め日~決算期末」までの分を未払計上する

決算期末が末日の場合に給与の締め日が末日以外の場合は、締め日から末日までの給与を経費として未払計上することができます。
例えば、給与の算定期間が15日締めの会社なら16日から末日までの給与を経費として未払計上することができます。

例(3月決算法人)
給与算定期間 2月16日~3月15日 支払日3月25日
未払計上期間 3月16日~3月31日(16日間)

このような場合、3月16日~4月15日(31日間)の給与総額を日数按分いたします。
仮に4月15日締めの給与が310万円だとすると、

310万円 × 16 / 31 = 160万円

となり、160万円を未払計上することができます。

注意点

  • 役員報酬は日割りで未払計上することはできません。
    役員は委任契約で会社の業務執行を包括的に委任されていることから、日々の労働に対して対価を受ける従業員とは契約関係が異なるため、日割りで報酬を未払計上することはできませんので注意が必要です

 

2. 短期の前払費用の活用

前払費用とは、法人が一定の契約により継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち、事業年度終了までにまだ提供を受けていない費用にかかるものです。
原則として前払費用は支出したときは資産に計上し、役務の提供を受けた時点で費用にします。

ただし、法人がその前払費用のうち、支払った日から1年以内に役務の提供を受ける場合に、支払った金額を継続して事業年度の損金に算入している場合は、その支払った時点で経費とすることができます。(法基通2-2-14)

1年を超える前払費用の取扱いについて

3月決算の法人が、広告宣伝を目的として、ビルの側面に看板を掲示する契約を2年契約で結び、来期と来々期の分にあたる2年分の広告掲載料を3月末日に200万円支払いました。
このように1年を超える期間の前払いをした場合には、支払った日から1年以内の期間に対応する部分の金額でも経費とすることはできず、その支払った全額を長期前払費用として計上する必要があります。

注意点

  • 借入金を預金や有価証券などに運有する場合の借入金利息などのように、収益と対応させる必要があるものについては支払時点で経費にすることはできません
  • 一定の契約に基づき、継続的に役務の提供を受けるために支出した費用であること
  • 役務の提供の期間が1年以内であること
  • 毎期継続して支払った時に損金とすること
    ※1年を超える期間の費用を支払った場合は、1年を超える期間の金額だけでなく、その全額が前払費用となるので注意する

短期の前払費用として活用できる費用の例

  • 地代家賃
  • 賃借料
  • 生命保険料、損害保険料
  • 倒産防止共済掛金、中退共掛金

短期の前払費用として活用できない費用の例

  • 前払い給与
  • 翌期に放映されるテレビCM放映料
  • 新聞などの年間購読料
  • YahooリスティングやGoogleアドワーズなどのリスティング費用の前払い分

物品代金の前払いは、前渡金(前払金)に該当するため、前払費用ではないので「短期の前払費用」の適用を受けることができません。
また、ノウハウなどの提供にかかる前払いについては繰延資産に該当するため、こちらについても「短期の前払費用」とすることはできませんのでご注意ください。

 

3. 社会保険料、固定資産税、償却資産税の未払計上

社会保険料

社会保険料(健康保険・厚生年金保険の保険料)は、事業主が毎月の給与から保険料を徴収し、事業主負担分の保険料と併せて翌月の末日までに納めることとなっています。(例えば、3月分の保険料の納付期限は4月末日となります。)ですので、翌月分の社会保険料を未払計上することができます。
また決算月に支給する賞与に対する保険料も未払計上することが可能です。

決算期末日が月末でない法人の社会保険料の未払計上について
決算期末日が月末でない場合、例えば3月20日を決算期末日としている場合には、3月分の社会保険料を未払計上することは認められていません。
社会保険料は、被保険者が月末において在職している場合において、翌月末までにその保険料を納付することになっており、月末までに退職した分については納付する義務はありません。ですので20日などが決算期末日の場合は、決算期末日時点において債務として社会保険料が確定しているとはいえず、合理的に計算した金額を計上していたとしても損金とすることは認められません。(法基通9-3-2)

 

固定資産税、償却資産税

固定資産税や償却資産税は賦課決定方式という納税方式をとっています。賦課決定方式とは、国や地方公共団体が納付すべき税額を計算して課税する制度です。固定資産税は、毎年1月1日の資産に対して市町村がその資産の評価を行い、その税額を通知します。
このような賦課決定方式の税金は、賦課決定のあった事業年度の損金に算入することができますので、支払いをまだしていなくてもその金額を未払計上することができます。

 

4. 決算期末までの経費を未払計上する

決算期末までに債務が確定している費用を洗い出し、それを未払計上することで経費とすることができます。

注意点

  • 債務が確定している
  • 債務の原因となる事実が発生している
  • 金額が明らかになっている
  • クレジットカードでの決済の場合、最長2ヵ月後の引き落とし分まで当該事業年度の費用が入っている場合があるので、日付を確認して未払計上する

 

5. 不要な償却資産の処分、有姿除却の活用

固定資産が滅失した場合や、除却、または譲渡した場合には、その時点での帳簿価額を損金算入することができます。きちんと処理をしておくことで償却資産税のムダな支出も解消することにつながります。

有姿除却とは

ある固定資産につき、廃棄等をしていなくて存在はしていても、実質使用不能なものは除却損として損金の額に算入することができます。
以下の要件を満たす固定資産について有姿除却を行うことができます。(法基通7-7-2)

注意点

  • 当該資産の使用を廃止していて、今後通常の方法で事業に使用する可能性がないと認められる固定資産
  • 特定の製品の生産のために専用に使用していた金型等で、その製品の生産を中止したことで、将来使用される可能性がほとんどないことが客観的に明らかであるもの

ソフトウェアの除却

ソフトウェアは機械などと違い、物理的な廃棄というものがありません。ですが、以下に要件を満たし、そのソフトウェアを今後事業に使用しないことが明らかな事実があるときは、そのソフトウェアの帳簿価額から処分見込み価額を控除した金額をその事実が発生した事業年度に損金とすることができます。(法基通7-7-2の2)

  • 自社利用のソフトウェアについて、そのソフトウェアによるデータ処理の対象となる業務が廃止され、当該ソフトウェアを利用しなくなったことが明らかな場合、又はハードウェアやオペレーティングシステムの変更等によって他のソフトウェアを利用することになり、従来のソフトウェアを利用しなくなったことが明らかな場合
  • 複写して販売するための原本となるソフトウェアについて、新製品の出現、バージョンアップ等により、今後、販売を行わないことが社内稟議書、販売流通業者への通知文書等で明らかな場合

 

6. 不良在庫の処分

大幅な値下げをしても販売できそうにない、「無価値」な商品を廃棄することで、期末棚卸の金額をおさえることができます。「無価値」な商品を棚卸資産から除外することにより、財務数値も事実を反映したより正しいものとなります。

注意点

  •  実際に廃棄を行った証明を整備する必要があります
    ※例えば、廃棄業者の領収証や廃棄証明書などが客観的な資料となります

 

7. 貸倒引当金の計上

法人の有する金銭債権の貸倒れによる損失見込額として、損金経理によって算入した貸倒引当金のうち、損金算入限度額までに達する金額を損金に算入することができます。(法法52、法令96、措法57の10、法基通11-2-2~22、措通57の9-1)
貸倒引当金の計算はその債権について個別に評価する方法と一括で評価する方法があります。

個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の計算方法

個別評価金銭債権とは、その事業年度終了の時に金銭債権の一部について貸倒れその他これに類する事実による損失が見込まれる金銭債権をいいます。この個別評価金銭債権は次のように区分され、それぞれについて損失の見込額の計算方法が定められています。なお、繰入限度額は個々の債務者ごとに計算します。

また、「貸倒れその他これに類する事実」には売掛金、貸付金その他これらに類する金銭債権の貸倒れのほかに、保証金や前渡金等について返還請求した場合の返還請求権が回収不能となった金額も含まれます。

 

貸倒引当金の区分 繰入限度額
①法令手続き等によりその弁済が長期棚上された金銭債権 5年を超えて弁済される金額
②債務超過状態の継続等による一部取立不能の金銭債権 取立不能額
③法的手続き等の申立て等が生じている金銭債権 個別評価金銭債権の50%

①法令手続き等によりその弁済が長期棚上された金銭債権
法人の有する個別評価金銭債権の債務者について、次の特定の事由が生じたことによりその弁済を猶予され、又は賦払いにより弁済されることとなった金銭債権をいいます。

特定の事由

  1. 会社更生法若しくは金融機関等の更生手続の特例等に関する法律の規定による更生計画の認可の決定
  2. 破産法の規定による強制和議の認可の決定
  3. 商法の規定による特別清算に係る協定の認可
  4. 商法の規定による整理計画の決定
  5. 私的整理による関係者の協議決定で次に掲げるもの
  6. 債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているもの
  7. 行政機関又は金融機関その他の第三者のあっせんによる、当事者間の協議により締結された契約でその内容が上記6.に準ずるもの

繰入限度額の計算

貸倒引当金繰入限度額 = A - B - C

A:対象金銭債権の金額
B:特定の事由が生じた事業年度終了の日の翌日から5年を経過する日までの弁済予定金額
C:担保権の実行その他により、取立て等の見込みがある金額

 

②債務超過状態の継続等による一部取立不能の金銭債権
法人の有する個別評価金銭債権の債務者について、債務超過の状態が相当期間(おおむね1年以上)継続し、その事業に好転の見通しがないこと、災害、経済事情の急変等による多大な損失が生じたこと、その他の事実が生じていることにより、その一部の金額について取立て等の見込みがない金銭債権をいいます。

繰入限度額の計算

貸倒引当金繰入限度額 = A - B

A:対象金銭債権の金額
B:担保権の実行その他により、取立て等の見込みがある金額

 

③法的手続き等の申立て等が生じている金銭債権
法人の有する個別評価金銭債権の債務者について、次の事実が生じた場合の金銭債権をいいます。

  • 会社更生法若しくは金融機関等の更生手続の特例等に関する法律の規定による更生手続開始の申立て
  • 民事再生法の規定による再生手続開始の申立て
  • 破産法の規定による破産の申立て
  • 商法の規定による整理計画又は特別清算開始の申立て
  • 手形交換所による取引停止処分

繰入限度額の計算

貸倒引当金繰入限度額 = ( A - B - C ) × 50%

A:対象金銭債権の金額
B:実質的に債権とみられない金額
C:担保権の実行、金融機関等の保証債務の履行その他により、取立て等の見込みがある金額

 

一括評価金銭債権に係る貸倒引当金

一括評価金銭債権とは、売掛金、貸付金その他これらに準ずる金銭債権(個別評価金銭債権を除く)で、貸倒れによる損失が見込まれる金銭債権をいいます。
一括評価金銭債権の繰入限度額は、事業年度終了の日における金銭債権に貸倒実績率を乗じて計算します。
なお、資本金1億円以下の中小法人については、貸倒実績率と法定繰入率との選択適用が認められています。

一括評価金銭債権に該当するもの

  1. 売掛金・貸付金
  2. 未収の譲渡代金、未収加工料、未収請負金、未収手数料、未収保管料、未収地代家賃又は貸付金の未収利子で、益金に算入したもの
  3. 他人のために立替払いした立替金
  4. 未収の損害賠償金で益金に算入したもの
  5. 保証債務を履行した場合の求償権

以下に示すものは一括評価金銭債権には含めません

  1. 預貯金及びその未収利子、公社債の利子、未収配当その他これに類する債権
  2. 保証金、敷金、預け金その他これに類する債権
  3. 手付金、前渡金等で資産取得の対価又は費用の支出に充てる費用
  4. 仮払金、立替金等で将来精算される費用
  5. 雇用保険法等に関する法律等の法令の規定により交付を受ける給付金等の未収金
  6. 仕入割戻しの未収金

繰入限度額の計算

貸倒実績率による場合は、その法人の過去3年間における貸倒損失の発生額に基づき次の算式により計算いたします。

貸倒引当金繰入限度額 = 一括評価金銭債権の合計額 × 貸倒実績率

貸倒実績率 = X / Y (小数点以下4位未満切り上げ)

X = 当該事業年度開始の日前3年以内に開始した各事業年度終了日の一括評価金銭債権の合計額 / 当該事業年度の月数

Y = ( Z:当該事業年度開始の日前3年以内に開始した各事業年度終了日の売掛債権等の貸倒損失の額 + その各事業年度の個別評価金銭債権の繰入額 - その各事業年度の個別評価金銭債権の戻入額  ) × 12 / Zの各事業年度の月数の合計数

 

法定繰入率による計算(資本金1億円以下の中小法人に限定)

貸倒引当金繰入限度額 = ( 一括評価金銭債権の合計額-実質的に債権と見られない金額 ) × 法定繰入率

法定繰入率

事業の区分 法定繰入率
①卸売業及び小売業(飲食店及び料理店業を含み、④の割賦販売小売業を除く) 10/1000
②製造業(電気、ガス、熱供給、水道及び修理業を含む) 8/1000
③金融及び保険業 3/1000
④割賦販売小売業及び割賦あっせん業 13/1000
⑤その他の事業 6/1000