棚卸って実際何をすればいい?棚卸の基礎知識

決算日をむかえる会社において必要な業務のひとつに棚卸があります。

棚卸とは決算日において残っている商品や製品などの在庫の数量をかぞえ、在庫の金額がどれだけあるかを計算することです。商品点数などが多い会社においてはこの棚卸作業は時間と労力がかかるので大変だというイメージを持っている方も多いでしょう。
ただこの棚卸をやることには会社の損益を把握するためなどの重要な意味があります。

今回は棚卸の必要性やそのやり方について経営者や経理担当者の方に知っておいてほしい基本的なことについて紹介したいと思います。

  1. 棚卸って何のためにやるの?棚卸の必要性
  2. 商品在庫と仕掛在庫について
  3. 実地棚卸と帳簿棚卸について
  4. 棚卸の基本的なやり方

 

1.棚卸って何のためにやるの?棚卸の必要性

・正確な利益の把握

棚卸を行う目的のひとつに会社の業績をきちんと知るため、ということが挙げられます。
損益計算書において最初に表示される利益に売上総利益があります。計算式は、

売上総利益=売上高-売上原価

となります。売上総利益は棚卸を行い、その在庫金額を売上原価から控除する事により売上総利益の金額に大きく影響します。さらに売上原価の中を細かく表示すると、上記の計算式は以下のようになります。

売上総利益=売上高-(期首棚卸高+当期仕入れ高-期末棚卸高)

となります。上記の計算式が意味することを単純な例で説明しますと、

ペンを100本仕入れ(1本70円)、その内50本を1本100円で売り、残りの50本が在庫となっているとします。
この場合の売上総利益の金額は以下のようになります。

売 上   5,000円=100円×50本
仕 入   7,000円=70円×100本
在 庫   3,500円=70円×50本
売上総利益 1,500円=5,000円-7,000円+3,500円

つまり、在庫の金額によって決算書の利益の額が増減するのです。
利益がでてると思ってたけど棚卸を行ってみたら予想以上に金額が少なかったので思ったほど利益がでてなかった…なんてことになりかねません。下手をすると赤字だったなんてケースも珍しくありません。

・在庫管理をすることで経営判断に役立てる
(在庫の数量を管理するこによる資金繰りやコストダウン)

前述しました通り、在庫というものは仕入れるためにお金は出て行ってしまいますが、まだ売れていない為にお金に替わっていないものです。つまり、運転資金が寝た状態となります。利益は出ているのにお金が残っていない要因の一つでもあります。
また、日々の在庫管理をする事により余分な仕入れを防ぎ、在庫があるのにまた仕入れてしまった(余分なお金を寝かしてしまう結果)という事を無くしましょう。
決算期末のみの棚卸だと、日々の在庫管理が出来ていない場合には期中の売上原価の浪費の把握が難しくなり期末に慌てることにもなりかねません。
適時に棚卸をすることで、陳腐化した商品や仕入れた時期より現状の売値相場が著しく下がっているもの、また壊れて商品価値がなくなっているもの等を期中は在庫処分セールで少しでも早く現金化したり、評価損が計上できる割合を把握しておき決算期末までに棚卸の評価方法の届出をしておく事で評価損等の節税対策にも繋がります。

 

2.商品在庫と仕掛在庫について

決算時に使われる用語として、

「在庫の棚卸金額はいくらですか?」

「仕掛りはいくらありますか?」

というような言葉を経理担当者の方であれば聞かれた経験がお有りだと思います。
基本的にはどちらも棚卸資産に該当します。では何故用語が違うのかということですが、簡単にいうと業種によって在庫の形態が違うためです。
通常、卸・小売業等はメーカーや卸売業者(代理店等)から商品や製品を仕入れて、そのまま販売します。このような場合は商品在庫・製品在庫と言われます。
それに対して、製造業(加工業含む)・建築業(土木業等含む)・不動産業(賃貸業を除く)・サービス業の一部の場合は、材料や半製品・建築資材を仕入れそれに何らかの手を加えて商品・製品を完成させます。この場合、仕入れてから完成までにそのものに係る人件費・消耗資材等を投入することになりますが、決算までに完成出来なかったいわゆる半製品状態の金額を合理的に見積り、計算された金額が仕掛在庫と言われるものです。
原則として、その仕掛品や仕掛工事の一部を他社や外注業者に依頼している部分があれば、支払は済んでいても(仕入れや外注費として費用計上済み)決算では仕掛在庫として売上原価から控除する事になります。

 

3.実地棚卸と帳簿棚卸について

棚卸の重要性を理解したところで実際に棚卸をしてみます。在庫点数にもよりますが、例えば、半日や一日かけて会社やお店を閉めて、スタッフそれぞれが棚卸表を持ち担当する棚や倉庫に別れ商品名・個数を数え棚卸表に記入し、完了後各人の棚卸表(原票)を集め商品毎に集計をとり、単価を記入し棚卸集計表としてまとめたものが棚卸表となります。
在庫の多いところでは時間コストや人的コストをかけ、その日の業務に支障をきたしながらでないとできない場合もあります。ただ毎月そのようなコストをかける訳にはいきません。そこで必要になってくるのが帳簿棚卸と言われるものです。帳簿棚卸とは入出庫管理表を作成し、在庫倉庫等に商品別のバインダーやノート形式で提げておき、商品を受け入れた人や出庫した人がその都度個数を記入しておくというものです。そうしておくことで在庫の商品点数はその管理表を確認することで把握することができます。またこの帳簿棚卸は実際に商品を数えて記録するわけではないので時間をかけずに行うことができます。

帳簿棚卸のメリットデメリット

  • 実地棚卸と違って時間がかからないので時間コスト、人的コストが抑えることができる
  • 在庫の金額がある程度正確に把握できるので素早く会社の業績を知ることができる
  • 商品が盗難や陳腐化していた場合などに帳簿上と実際の個数にズレが生じるが帳簿棚卸では把握しにくい

※注意点として未着品(商品を発注しているがまだ届いていないもの)、積送品(得意先に発送しているが先方にまだ届いていないもの)と呼ばれるものも在庫となりますのでご注意下さい。
ただし、出荷基準(出荷したときに売上を計上)の場合、積送品は在庫にはなりません。

 

4.棚卸の基本的なやり方

卸、小売業の場合

卸・小売等(仕入れたものを加工せずに販売)は非常に簡単です。商品ごとの棚卸表を作りましょう。必要な記載項目は以下の5つです。

  • 棚卸実施日
  • 商品名
  • 個数
  • 単価
  • 金額(個数×単価)

下図のように棚卸表に各項目を記載していきます。

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実地棚卸表のテンプレート(ダウンロード)

これを全商品について行い、算定後金額の合計額が在庫の評価金額となります。量によっては時間はかかりますが難しくはないですね。
棚卸にかかるコストを抑えたい場合は月次では帳簿棚卸を行い、決算期末には実地棚卸をしましょう。12ヶ月目の帳簿棚卸金額=決算期末実地棚卸金額であれば、陳腐化・減耗・不良在庫等の区分けをきちんと行うことで棚卸金額が減少し、節税となります。もし帳簿棚卸金額と実地棚卸金額に差異がある場合はその差異の原因を検証することで翌期に向けての改善点や資金繰りを考える有効なデータとなりうります。

建設土木業、不動産建売業等の場合

建設土木業や不動産建売業の場合は2.で説明した仕掛在庫を把握するために工事台帳や物件管理台帳を作成しましょう。

工事ごと、建築現場ごとのノートもしくは管理表を作成し、請負契約金額欄 途中入金金額(手付・中間・決済等の前受金入金日・金額欄)を上段、又は左欄に記載しその下段または右欄に日付・投下材料・金額・外注業者名・請求金額・支払い金額・支払い金種(現金・当座小切手・普通預金振込・手形等)を記載してきます。
建築現場を複数行き来している自社大工等スタッフに係る人件費は、現場毎に各スタッフの時間給単価×投下時間=投下人件費等の合理的な見積金額を記載。
入金は前受金なので売上は計上しない分、その現場に係る工事原価の合計が仕掛り工事原価となり、期末仕掛り棚卸高という在庫になります。

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工事台帳のテンプレート(ダウンロード)

製造業、加工業等の場合

製造業や加工業の場合の仕掛在庫を把握するには工程表を作成しましょう。
工程表は製品が今どの段階まで進んでいるか(進捗状況)が把握できればOKです。最終完成までをA工程、B工程、C工程として分け、色分けなどをして各工程に先ほどの在庫管理表から投下個数・金額を加え、その各工程に従事しているスタッフの人件費を加えます。製造機械にかかる光熱費等の間接原価は合理的な基準で配賦した金額を加えれば現工程までの進捗原価がでます。
その進捗原価が期末仕掛り品あるいは半製品として在庫として計上する金額になります。

まとめ

上述した管理表はどれも決められた書式というものは有りませんので、皆様の解り易い・誰でも簡単に記入しやすい書式や場所等に置いてみて下さい。
また材料や商品の単価に関しては、皆さんの実態に応じて、先入れ先出し法・後入れ先出し法・移動平均法・最終仕入れ原価法等のどの仕入単価を使用するかご検討下さい。
評価方法については、届出書に適用を受けようとする事業年度開始の日の前日まで(決算期末日まで)の税務署に提出する必要があります(適用は翌期・次年度から)ので漏れなく行いましょう。
また税務調査では棚卸高(在庫)は必ずチェック、聞き取りの対象になり易いのでどのようなやり方で、どのような根拠で算出しているかを説明出来るようにしておきましょう。
日々頑張って作成している在庫表等の資料を見せれば、ああ解りました、でスルーされてしまう事も多々ありますが、自社の経営管理が第一の目的です。