税務調査は準備調査(事前準備)が重要!…元税務調査官のエピソード

規模にもよるが調査対象を訪問できるのは概ね2日間から3日間程度。こんな短い時間ではすべての経理処理を検討することなどできないから調査ポイントを絞るのだが、ポイントを絞り切れなかったり外したりすれば中途半端な調査に終わる。だから調査官はみな「税務調査は準備調査(事前準備)が勝負!」という言葉を聞いて育つ。

新米だったころの私も確かに準備調査が重要だということは理解していた。しかし未熟ゆえに、常に十分な準備調査を行うことができていたかどうかについて、税理士に転向した現在でも確信が持てないところはある。

例えば国税庁には膨大な資料情報が日々収集・蓄積されている。しかしこれらは「生」のデータである。当然この中には売上未計上や簿外預金通帳の資料情報があるはずであるが、そのままでは読み取ることができない。きちんと整理し、精査しなければ有効に活用することができないのだ。

調査件数を多く処理しなければならない3月以降などは時間に余裕がなく、内偵調査や外観調査が十分に行えないこともあった。

内偵調査とは

飲食店や小売店などの不特定の者に主に現金で販売する店に、税務調査を実施する前に調査官が客を装って行う調査である。
確認項目としては、レジ管理がされている場合は、レジ打ちの有無、客数、客単価、従業員数である。
内偵調査によって把握した事項は、後日、臨場調査で確認する。

  1. 内偵調査で支払った金額が、売上に計上されているか
  2. 内偵調査時に把握した客単価と客数から想定した売上と比べて売上計上額は適正か
  3. 内偵調査時で確認した従業員数に比べて人件費計上は適正であるか
    ※飲食店や小売店等の現金商売の場合は、帳簿調査のみでは売上計上の適正を確認するのが困難であるため、内偵調査での確認事項が重要となる。

 

外観調査とは

税務調査実施前に、社長の自宅や会社事務所等、土地保有の場合は土地の使用状況を、事前に確認する調査である。
外観調査によって把握した事項は、後日、臨場調査で確認する。

  1. 社長の自宅が修繕したことを確認したケースは、会社の修繕費などの経費に計上していないか
  2. 会社の事務所等の外に自動販売機が設置されているケースは、自動販売機設置に関する収入が雑収入として計上されているか
  3. 更地を駐車場としてしているケースは、駐車場収入が雑収入に計上されているか。

スポーツの大試合にぶっつけ本番で望む選手はいないだろう。税務調査も同じで、よっぽどのラッキーやイレギュラーが発生しない限りは納得できる結果が出るわけもない。事前に情報を集め、攻めるポイントを絞ることが大事だ。

どんな調査官もこれを理解し、やがて後輩に「税務準備は調査が勝負!」と説き聞かせはじめるものである。調査を受ける側の税理士となった今もその思いは変わらない。真剣勝負には、周到な準備が必要なのだ。

参考…税務調査を受ける側が事前に確認すべき項目

事業概況等

  1. 会社概況や取引状況について正確に説明できますか
  2. 遠隔地取引や単発などのイレギュラーな取引について説明できますか
  3. 現金残高と現金出納帳の帳簿残高は一致しますか
  4. 法人名義の預金通帳等は、会社に保管していますか
  5. 調査当日に社長及び経理担当者の机、金庫等の中を調べられても大丈夫ですか
  6. 調査当日にPC(ごみ箱も)をチェックされても大丈夫ですか
  7. 調査当日に事務所、店舗、工場、倉庫等の実地確認されても大丈夫ですか

売上・雑収入関係

  1. 納品書及び請求書(控)、領収証(控)等から売上が適正に計上されていますか
  2. 期末の売上計上は適正に計上されていますか
  3. 受注から売上計上までの一連の流れを説明できますか
  4. 売上の計上基準は明確になっていますか
  5. グループ法人または役員親族間の取引金額は適正ですか
  6. 個人事業者から法人成りの場合、個人時代の預金口座に売上代金が入金されていませんか
  7. 売上値引きがある場合、計算根拠も含めて説明できますか
  8. スクラップ、副産物の売却代金は雑収入に計上されていますか
  9. リベート収入等は雑収入に計上されていますか

仕入・外注関係

  1. 仕入及び外注費に関する証票類は調査官に提示できる状態ですか
  2. 期末の仕入及び外注費の計上が適正に計上されていますか
  3. 紛失した証標類がある場合、取引内容及び取引先への確認が可能ですか
  4. 仕入値引き等については適正に計上されてますか
  5. イレギュラーな取引について、取引開始の経緯を含めて説明できますか
  6. グループ法人または役員親族間の取引金額は適正ですか
  7. 給与課税対象になる外注費はありませんか
  8. 従業員から外注先になった者の外注費計上の正当性は説明できますか

期末棚卸資産関係

  1. 期末棚卸資産の明細表等の集計は正確ですか
  2. 期末棚卸資産計上については、棚卸実施状況も含めて説明することができますか
  3. 預け在庫及び積送品については計上していますか
  4. 期末棚卸資産計上額には労務費が算入されていますか

人件費関係

  1. タイムカードまたは出勤簿等の勤務状況資料を含めて、人件費計上の流れを説明できますか
  2. 退職したアルバイトなどの非正規社員については、その者の住所等も含めた詳細説明ができますか

一般管理費関係

  1. 一般管理費に関する証票類は調査官に提示できる状況ですか
  2. 期末の一般管理費の計上が適正に計上されていますか
  3. 短期前払費用で損金計上した費用については、損金算入の要件を満たしていますか
  4. 紛失した証標類がある場合、取引内容及び取引先への確認が可能ですか
  5. 接待交際費と他の勘定科目との区分は適正にされていますか
  6. 旅費規定作成を含めた旅費精算は適正にされていますか
  7. 修繕費と資本的支出の判定は適正にされていますか
  8. 商品評価損の計上がある場合は、資料に基づいて説明できますか
  9. 貸倒損失の計上がある場合は、資料に基づいて説明ができますか
  10. 従業員に家賃や昼食の補助を行っている場合、源泉所得税課税は大丈夫ですか
  11. 保険料については、資産計上分と損金計上分を適正に区分していますか
  12. 交通違反金などの罰科金は、法人税申告書で損金不算入にしていますか

その他

  1. 仮受金や前受金で売上計上すべきものはありませんか
  2. 仮払金の精算は適正にされていますか
  3. 役員に対する貸付金には利息収入を計上していますか
  4. 固定資産の除却損がある場合は、証拠資料等で説明できますか
  5. 役員退職金については、損金算入の要件を満たしていますか
  6. 消費税申告の計算において、課否判定は適正にされていますか
  7. 契約書や領収証には適正な収入印紙が貼付されていますか