元税務調査官が語る!知られざる「職業としての税務調査官」

税務調査の内容や対策についてはこれまで何度か触れているが、今回は一職業人としての税務調査官にスポットを当ててみたい。相手がどんな人間であるかを知ることは、きっと税務調査対策の役に立つはずだ。後半では「一度の過ち」が大きな代償を招いた税務調査事例を紹介する

  1. 税務調査官という職業
  2. 税務調査の本質
  3. 税務調査でやってはいけないこと
  4. 税務調査事例

1. 税務調査官という職業

税務調査官といえども「サラリーマン」的存在であり、職業人としては私企業の社員と変わるところはない。

上司や組織の命令には逆らえない。

  • 調査を行う会社は上司(統括官)が選定し、命令される。
  • 調査官は必ず準備調査を行い上司(統括官)の指示を仰ぐ。(指示事項は必ず確認する。)
  • 必ず帰署後に、上司(統括官)にその日の調査状況の復命を行う。
    *担当統括官の指示によっては、後日の調査展開がガラリと変わる。

税務調査官も転勤がある。

  • 必ず転勤があり、中には転居のケースもある。(統括官(課長級)以下は、概ね3年~4年毎)
    *調査官が、同じ会社に2回以上調査を行う可能性は少ない。
  • 転勤辞令には逆らえない。(単身赴任もある。)

税務調査官のノルマ

  • 調査官には、調査件数というノルマがある。(年間30件前後)
  • 調査官には、増差税額のノルマはないが、評価の基準になるため、結果(増差税額)が気になる。

税務調査官も人の子

  • 調査官も、調査初日は緊張している。
  • 調査官には、まじめな印象を与えるべきである。
    ※ここの会社は、時間をかけても無駄だと思わすことが調査を早期に終了させるポイント。

このように税務調査官も組織の一員であり、税務調査もノルマと効率を追求する「仕事」として行われる。決して特別な存在ではないことを覚えておきたい。

2 税務調査の本質

さて仕事である以上そこにはパターンや傾向、つまり本質を見ることができる。

まず税務調査は性悪説にのっとって行われる。

  • 税務調査は申告書の内容の正当性について確認するのが目的だが、現実は問題点を見つけるのが最大の目的であり、あくまで疑いの目で申告書の内容を確認する。

そして税務調査はいかに納税額を伸ばせたか「増差税額」が重視される

  • 少しでも多く、増差税額を課す方向で展開していく。
  • 申告是認(問題点なし)は歓迎しない。
  • 重加算税対象(仮装隠蔽行為)を見つけるのが最大の目的。

しかし日数は限られているため、効率のよい調査を行わなければならない。

  • 問題点ありと思われる項目から確認調査を行う。(限られた調査日数で全部を確認するのは不可能)
  • 小さな問題点を大きく広げるように調査を展開する。
  • グレーゾーン部分は、増差税額を課すことができるよう事実確認を重ねていく。

3 税務調査でやってはいけないこと

調査官も人の子。税務調査は仕事であるが、挑発的態度に対してはやる気が燃え上がるケースがある。

  • 調査官も心を持った人間であり、挑発的態度をとられれば感情的になることがある。
  • 調査官のヤル気にさらに火がつき税務調査が長引くケースもある。

調査官の質問に対しては、回答をコロコロと変えないようにする。

  • 質問に対して、回答をコロコロと変えられると調査官の心情としては信用できなくなる。
  • 質問を受けると想定される項目は、説明しやすいように関係書類もふくめて整理しておくことが大切。

 

4 税務調査事例……たった一度の過ち

修理業を営む(株)A社の社長のBさんは、近所の(株)C社の機械の修理を引き受け、後日修理代金を現金で領収した。金額も10万円で少額であったため、小遣い欲しさに売上に計上せずに自分の財布の中に入れてしまった。Bさんは真面目で几帳面な性格でああり、今回のように売上を計上しなかったことは過去の一度もなかった。

後日(株)A社の税務調査が行われ、税務署の担当調査官は領収証(控)から売上計上の確認をしたところ、売上に計上されていない(株)C社の10万円の領収証(控)を見つけた。

担当調査官は、社長のBさんに厳しく質問調査を行い、観念したBさんは正直に(株)C社の売上を計上せずに自分の小遣いとして消費したことを認めるとともに、売上を計上しなかったのは今回の10万円のみであると弁明した。しかし担当調査官は他にも計上していない売上があるのではないかと疑った。

その後(株)C社への反面調査はもちろんのこと他の得意先への反面調査も実施された。また、Bさんや他の役員、主要な従業員の個人預金口座への銀行調査は徹底的に行われた。

(その結果)

税務署の担当調査官が長期間にわたって調査した結果、売上に計上していなかったのは(株)C社に対する売上の10万円だけということが確認され、追徴税額が重加算税対象(本税額の35%)の処理で終了したが、反面調査された(株)C社をはじめ多くの得意先に迷惑をかけてしまった。

Bさん自身、調査中は仕事に力が入らなかったとともに、10万円の代償として多く得意先に迷惑をかけたことは、信用第一の会社にとってあまりにもに大きかった。

(税務調査官からのアドバイス)

たとえ少額でも売上や雑収入などの収入については、確実に収入計上する。税務調査官は少額で一度きりの売上除外でも、その他にもあるのではないかと必ず疑うものである。