今回は税務調査中の気軽な雑談について。それこそが経理担当者が税務調査において最も注意すべきであることを中心にまとめた。後半は、雑談によって雑収入除外がバレてしまった税務調査事例を紹介しよう。
- 税務調査官の応接術
- 税務調査官の会社概況の聴取方法
- 雑談こそ重要調査項目
- 税務調査時の注意事項
- 税務調査事例(雑談編)
税務調査官の応接術
税務調査開始時
- 税務調査官は笑顔を絶やさない(口は笑っても目は真剣!)
- 最初の挨拶は、笑顔で丁寧に行われる。
- 挨拶直後の会話は、天候ネタ、景気ネタが多い。
税務調査中
- 質問調査は穏やかな口調と表情で行われる。
- 社長の趣味を事前に確認している場合は、趣味の話題を入口にして調査本題に入ってくるケースがある。
- 証票類の提出依頼は下手の態度で依頼してくる(税務調査官は威圧的な態度はとらない)
- 現況調査も、笑顔でさりげなく実施する。
- 問題点を発見した時は、穏やかな雰囲気で、かつき然たる態度で挑んでくる。
- 問題点追及で行き詰った時は変化球を投げてくる(話題を変えたり場を外すなど)
税務調査官の会社概況の聴取方法
会社の沿岸・業務内容・営業方針などを予備知識を活用しながら聴取する。
- 業界の専門知識や用語を事前に予習している。
- Webページがある場合は事前に閲覧している。
取引先に関する事項
取引先の範囲、取引条件と金融機関との取引状況
- 取引先の申告状況を事前に確認している場合がある(貸倒損失になっているケースなど)
- 金融機関との取引状況は、資料情報からも把握している。
役員及び社員の氏名・住所と職務内容
- 店舗、工場、倉庫の実地確認時に聴取することもある。
- 役員や主要な社員については、事前に申告状況や家族状況を確認している場合がある。
- 役員や主要な社員については、資料情報から個人預金を事前に確認している。
社長個人に関する聴取
経歴、家族状況、趣味、社長個人の資産状況など
- 事前に申告状況や家族状況を確認している。
- 資料情報から個人預金を事前に確認している。
- 社長の性格及び趣味については、前回調査等で把握している場合は記録として残っている。
雑談こそ重要調査項目
税務調査官の調査での第1目的は、売上除外などの簿外取引を見つけることである。帳簿に記載されない内容は調査だけで発見するのは困難なため、聴き取り調査が重要となってくる。事務的な会話の聴き取り調査では、調査される側も警戒して真実を喋らない恐れがあるため、趣味、経歴、交友関係、日常生活等を雑談を交えながら気軽な雰囲気で会話する手法で、帳簿等に記載されていない部分の聴き取り調査を行っている。
雑談に関しての注意事項について
- 余計なことは喋らない。
- 調査能力の高い調査官こそ雑談が上手。
- ベテラン調査官ほど雑談時間が長い。
- 経歴や交友関係を喋るときは慎重に。
- 雑談でも、まじめな印象を与えるように心掛ける。
税務調査時の注意事項
- 挑発的な態度はとらないように(挑発的な態度に燃え上がる調査官もいる。)
- 調査官の質問に対して回答をコロコロと変えないように(調査官の心情としては信用できなくなる)
- 税務調査中の調査官は敵である(調査官に心を許さぬように気を付ける。)
- 調査官との会話中は目をそらさないように(調査官に誤解を与えるケースがある。)
税務調査事例(雑談編)
金属加工業を営む(株)A社は設立20年以上の企業。経理も社歴10年以上のベテラン社員が担当しており、完璧な経理処理を行っていた。
ある日、税務署の担当調査官から(株)A社の税務調査を行う旨の事前連絡があり、日程調整によって盆明けに税務調査が行われることになった。しかし(株)A社と顧問税理士は決算書や申告書の正確性については自信を持っているため、気軽な気分で税務調査に臨んだ。
だが、(株)A社には一つだけ税務上の問題点があった。金属加工業を営む(株)A社は操業中にダライ粉が発生する。そのダライ粉を定期的に訪れる回収業者に販売していたが、代金は少額で現金で受け取るため、会社の収入として計上せずに社長個人のお小遣いになっていた。
調査当日……税務署の担当調査官は40代のベテラン調査官であったが、経理処理が完璧であったため帳簿調査では問題点が何ひとつ見つけることができなかった。
調査2日目の午後に、唯一、気になることについて質問することにした。それは調査初日に工場の実地確認を行った時に、ダライ粉を貯めて保管していることだった。
ベテラン調査官は、雑談を交えながら気さくな雰囲気で巧妙に聴き取り調査を進めたところ、株)A社の社長はベテラン調査官の巧みな会話に心を許してしまいうっかりとダライ粉収入があることを喋ってしまった。
その後、穏やかな雰囲気の中で、き然たる態度で聴き取り調査を進めていくベテラン調査官に、ダライ粉収入を除外して個人的なお小遣いとして使っていた事実とダライ粉回収業者の名前も喋ってしまった。
後日、ベテラン調査官がダライ粉回収業者の反面調査を実施して、雑収入除外の金額を把握した。
(その結果)
当然のことだが追徴税額は重加算税(本税の35%)対象となり、ダライ粉回収業者にも迷惑をかけてしまった。