今回は攻める側の税務調査官が、帳簿や証票類等からどのようにして資産・負債科目を調査するかをまとめてみた。
後半には、仮受金に関する調査事例について紹介しょう。
- 税務調査官の視点(資産編)
1. 現預金の検討
2. 売掛金の検討
3. 仮払金の検討 - 税務調査官の視点(負債編)
1. 買掛金・未払金の検討
2. 仮受金・前受金の検討
3. 借入金の検討 - 調査事例
税務調査事例(仮受金編)
税務調査官の視点(資産編)
1. 現預金の検討
現金監査
現金管理は経理の基本業務で重要調査項目であるため、調査当日の現金残高と現金出納帳残高の照合を行う。
- 現金残高と現金出納帳残高の照合で不一致はないか。
- 1で不一致が生じた時は、原因についての解明を行う。
- 現金の保管場所の確認。
預金の把握
預金については、あらゆる機会をとらえて簿外預金及び代表者等の個人預金を把握する。
- 預金通帳の保管場所の確認。
- 名刺フォルダー及び連絡先一覧表、カレンダーなどから簿外取引の銀行がないかを確認する。
- 機会があれば、代表者の自宅に臨場して、個人預金の把握に務める。
- 個人預金の中に、簿外取引がないかを確認する。
2. 売掛金の検討
- 売上帳(得意先台帳)から売掛金を集計、検算するとともに、決算額と照合する。
- 多額の返品、値引き等はないか。
3. 仮払金の検討
仮払金は、故意に費用科目に振り替えることが容易であり、利益調整に利用されるケースがあるため、要注意の科目である。
- 経費等に振替処理している場合には、領収証等の証票類から計上の適否を検討する。
- 長期の仮払金については、内容及び利息の必要性について検討する。
- 役員及びその同族関係者に対する仮払金の使途を確認する。
税務調査官の視点(負債編)
1. 買掛金・未払金の検討
比較的容易に架空計上及び繰上計上が可能であり、要注意の科目である。
- 連年推移からみて異常に増加していたり、事業規模・形態等からみて多額なものなど、不審なものはないか。
- 決算期末に、多額計上あるいはラウンド数字で不審なものはないか。
- 長期未決済になっているものはないか。
2.仮受金・前受金の検討
- 収益計上すべきものの有無について関係証票類等から検討する。
3. 借入金の検討
- 役員及びその同族関係者からの借入金については、その資金出所を把握し検討する。
- 簿外資金を役員借入金の科目を利用して本勘定に受け入れ、運転資金としてしようしていないか。
調査事例
税務調査事例(仮受金編)
コンサルタント業を営む(株)A社は今期(5月31日決算)の業績が好調で、例年以上の所得計上が見込まれたので、納税額を少しでも減らす目的で利益調整を行った。
利益調整の手口は、5月20日に入金済みの(株)B社からのコンサルタント料2百万円を、売上計上すべきにもかかわらず仮受金に計上し、翌期(6月1日以降)に仮受金から売上に振替処理することによって、売上を除外する方法であった。
後日、(株)A社の税務調査が行われ、税務署の担当調査官から(株)B社の仮受金について質問された。(株)A社は関係証標類は誤って紛失したとの嘘の答弁をするとともに、曖昧な回答で逃げ切ろうとした。担当調査官は、事実確認するためには(株)B社への反面調査か必要だと判断し、帰署後、統括官(課長級)に復命して了解を得た。
担当調査官が(株)B社に反面調査を実施したところ、(株)A社の発行したコンサルタント料2百万円の請求書及び領収証を把握するとともに、売上を仮受金に仮装して利益調整している事実を把握した。
担当調査官は(株)B社で把握した事実をもとに、(株)A社の社長及び経理担当を厳しく追及した結果、(株)B社からの売上2百万円を仮受金に計上することによって、利益調整した事実を認めた。
(その結果)
当然のことだが追徴税額は重加算税(本税の35%)対象となり、(株)B社にも迷惑をかけてしまった。