元税務調査官が語る「税務調査の流れとチェックポイント」

事業を営んでいればいつか必ずやってくる税務調査。「守る側」である経理担当者にとって事前の準備はいくらやってもやりすぎることはない。そこで税務調査の流れと、各段階でのチェックポイントを整理してみた。後半は、参考として調査当日の昼休みの活用方法について紹介している。

  • 税務調査とは
  • 準備調査の確認ポイント
  • 初動調査に対する準備
  • 帳簿調査に対する準備
  • 参考(調査当日の昼休みは大切な作戦会議タイム?)

税務調査とは?

日本では納税者自身が所得などの申告を行い納税額を確定させる申告納税制度がとられているが、時に誤った申告が行われることがある。税務調査はこれを正し、適正な納税を促すものだ。

しかし納税者と徴税者の解釈は食い違うものであり、そして徴税者はいつも追徴の余地がないかを調べている。どんな企業もいつかは税務調査を受ける宿命にある。この点で税務調査は調査する側(税務署)と調査される側(納税者)との戦いであるといえる。

基本的には日々適正な経理処理を行うことが肝要だ。しかしそれでも税務調査はやってくる。その日のために、しっかりと準備をしておきたい。

準備調査の確認ポイント

これまでにも何度か触れているが、税務調査官は必ず準備調査を行い、追徴の可能性が高い調査を優先している。主な準備調査の内容は以下の通り。「守り手」である経理担当者は提出済みの税務書類や取引内容などを普段からチェックしておきたい。

  • 過去5年分の申告書の見直し作業
  • 過去5年分の申告状況の推移の検討
    ※異常計数の抽出作業
  • 過去の調査状況
  • 資料情報のチェック
  • 取引先の状況
  • 外観調査(現金商売等は内偵調査)
  • 代表者の個人申告状況の確認
    ※代表者の自宅の外観調査を行うケースもある。

また、これら準備調査の内容について、税務調査官は必ず上司の統括官(課長級)に報告し指示を仰いでいる。また指示事項は税務調査時に必ず確認される。その点も注意しておきたい。

守る側の経理担当者の心得

さて、税務調査を受ける経理担当者は何ができるだろうか。予想される指摘事項の洗い出しなどが万全にできるよう、税務調査の日程調整には十分な余裕を持たせたい。税務調査官の目的は追徴税額を課すことであることを念頭におき、各種数字の整理につとめること。

また「敵」である税務署の調査官自身を知ることも重要だ。所属する部署、職名(上席国税調査官あるいは調査官等)経験年数などからどの程度の規模の調査になるのかある程度想定することができる。こうした情報からも「本気度」を量っておきたい。職名の詳細は「税務署の組織力その1」を参照のこと。

初動調査に対する準備

これらは基本的だが必ず問われる事項である。ここで誤解を招くと税務調査が長引いたり反面調査が実施されることもある。担当者間でしっかりと読み合わせておきたい。

事業概況の事前準備

  • 日常業務の流れを具体的に説明できるようにする。
    ※例えば製造業などは、工場見学を交えながら、製造過程や製品などを説明できるようにし、卸売業などは、取扱商品をパンフレット等で説明できるようにする。
  • 遠隔地取引やイレギュラー取引こそ、時間をかけても調査官に説明できるようにする。

現金監査の事前準備

現況調査の事前準備

  • 調査当日に社長及び経理担当者の机、金庫等の中を調べられても大丈夫か。
  • 調査当日にPC(ゴミ箱も)をチェックされても大丈夫か。
    ※現況調査の詳細は「法人の税務調査対策その1」を参照

帳簿調査に対する準備

過去の調査での修正事項及び指導事項の是正状況について説明できるようにする。

  • 調査官にとっては、重要調査項目である。是正状況をチェックしておくこと。

売上計上の準備

  • 受注から売上計上までの一連の流れを説明できるようにする。
  • 売上値引きがある場合は、計算根拠も含めて説明できるようにする。

仕入・外注関係の準備

  • 仕入及び外注費に関する証票類は、調査官に提示できるようにする。
  • 従業員から外注先になった者の外注費計上の正当性の説明をできるようにする。

売上や棚卸商品などの主な勘定科目の期末計上について事前に確認する。

  • 調査官にとっては、重要調査項目であり、問題点が発生しやすいため、必ずチェックする。
  • 期末計上の状況によって、その会社の経理状況を判断する調査官もいる。

代表者の個人的費用と勘違いされやすい支出については調査官に説明できるようにする。

  • グレーゾーンを明白にし、不本意な追徴課税されないための予防策。

参考(調査当日の昼休みは大切な作戦会議タイム?)

調査当日の昼休みは調査官達にとって意外に重要な時間だ。午前中の調査内容を整理して午後からの調査展開を考えるほか、困難事案については昼休みに上司の統括官(課長級)に調査状況を報告して指示を仰いだりするケースもある。

守る側としても午前の調査展開をよく確認して、午後からの調査を予想する時間でもある。十分に自信があればしっかり休憩して午後からの調査に備えるのも大事だ。

また彼らは調査先で昼食の提供を受けてはならないと上司から厳しく指示されている。当日の調査官への昼食準備は必要ないことも付け加えておきたい。